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辻井伸行 オンラインコンサートを聴いてみた

こんばんは。

今日、6月7日(日)20:00~、ピアニスト辻井伸行さんのオンラインコンサートを視聴しました。

コンサートという今とても開催がしづらく、次の機会がいつになるのかわからない娯楽を、オンラインで試すのははじめてでした。今回観たのはこれです。

https://eplus.jp/sf/word/0000143642

 (【Streaming+】辻井伸行 オンライン・サロンコンサートのチケット、コンサート情報)

 

 

6月7日から4週連続の配信で、事前に申し込みをしてその時間限定で配信を行うスタイルで、今日がその第一回でした。

わたしはコンサートは大好きで、どんなに忙しくても辻井さんのコンサートは最低年1回、可能なら年2~3回通っています。でもオンラインコンサートというのははじめてで、PCの音質で大丈夫かなとか、やっぱりホールで聴く音楽との違いを感じてかえってがっかりするのじゃないかなと思い、今回申し込むかどうかちょっと悩みました。

曲目は以下のとおりでした。

 

・笑顔で会える日のために(辻井伸行

・月光(ベートーヴェン

・慰め(リスト)

ノクターン 第20番(遺作) (ショパン

ノクターン 第8番

・月の光(ドビュッシー

・夢(ドビュッシー

・コルトナの朝(辻井伸行

・春よ、来い(松任谷由実 ピアノバージョン)

・Ray of Water(菅野よう子 ピアノソロバージョン)※アンコール

 

20:00~21:00までの1時間で9曲+アンコール。さすが、辻井さんらしいファンサービスというか、曲数の多さにちょっと驚きました。月光と月の光の対比とか、似た名前なのに全然違う雰囲気で、あまり一緒に聴く機会はなかったので物珍しかったです。

 

…で、視聴してみた感想は

 

 

辻井さんのコンサートに通うくらい好きな人なら、一度聴いてみたらいいと思う

 

 

まず、オンラインコンサートの良かった点を挙げてみます。

・久しぶりの生演奏を楽しめる

・CDは同じ演奏の繰り返しだけど、生演奏は同じ曲でも違う演奏になるから、CDで聴ける曲でも新鮮味がある

・"今の"辻井さんの演奏が聴ける

・雑音が無くて聴きやすい

やっぱり、辻井さんの演奏もですが、他のアーティストのコンサートも中止や延期が相次いでおり、長くコンサートを聴きに行っていないので、久しぶりに演奏の映像と音を楽しめるのがよかったです。

また、CDで聴けるからいいや、とも思っていたのですがCDは何度か繰り返して聴くとすこし飽きてくるというか、どうしても1回分の演奏を収録しているので臨場感が薄れてくるという気がします。今回のオンラインコンサートで、「あ、CDの演奏とこの辺りが違う…とかも思ってワクワクしました。ピアニストの演奏は、ずっと追いかけているとわかりますが、以前聴いた曲でも、別の機会に聴いたとき、印象が変わっていることがあります。今の辻井さんの演奏を聴くことができたのは、すごくよかったです。

最後に意外といいなと思ったのが、雑音がないことです。意外とクラシックのコンサートでも、美しい曲を聴きながら観客の咳や身動きする音が気になることが多く、酷いときにはケータイの着信音がかなり長い間鳴りっぱなしのこともありました。当然ですが、オンラインコンサートはそういう雑音がなく、落ち着いて演奏に聴き入ることができたのがよかったです。

 

 

ただ、やはりホールのコンサートに届かないなと感じるのは以下の点です。

・音のスケール感

・演奏に浸る没入感

音質は、危惧していたよりは悪くなかった(※わたしは臨場感が欲しかったので、PC画面をテレビで映して視聴しました。専用ケーブルが一本あればすぐできます)のですが、やはりコンサートホール特有の、全身を音で包まれるような立体的な音のスケール感、重厚さはコンサートならではだなと感じました。

また、コンサートの場合、大きなホールに足を踏み入れるときに感じる非日常感、天井の高いホールに入り、椅子に座り、演奏開始時間を待つ間の期待感、ブザーが鳴り、照明が落ちてスポットライトで照らされるピアニストの姿…。そういう舞台装置のあるないは、やはり結構違います。

 

と、メリットとデメリットを述べましたが、個人的には「視聴してよかった」と思います。どうしても臨場感や音の感じ方はコンサートホールの方が良いですが、雑音がなくゆっくり楽しめるのはオンラインコンサートの魅力だと思いました。しかも、コンサートは自分の住む地域の公演が年に何回もないのが普通のなか、オンラインコンサートはこのように毎週連続、住む地域も問わないというのはとても助かります。

お値段は1時間視聴で1,800円。

たぶん、あまり辻井さんを知らない人や、ピアノにそこまで興味のない方にはおすすめしにくいです。オンラインにしては、ちょっと高いかなと感じる気持ちはわかります。

ですが、ファンの方なら、きっと視聴して後悔はないかと思います。

 

 

最後に、お試しでちょっと聴いてみたいというかたに、You Tubeの公式チャンネルとおすすめ動画を挙げておきます。

辻井伸行Official Channel(You Tube

https://www.youtube.com/channel/UCGDdU23g7xjolfoq486JOyQ

〇おすすめ 


辻井伸行 / ドビュッシー:月の光

【コンサートマナーは何故必要か】辻井伸行氏のサントリーホール公演について

昨日、辻井伸行氏のピアノリサイタルに行ってきました。

 

チケットを取った数か月前からずっと楽しみにしていたコンサートでした。最近ではオーケストラとの共演や室内楽のコンサートが続いていたので、辻井さんのピアノ曲をじっくりと堪能できるリサイタルは久しぶりで、わくわくと胸を躍らせて待っていました。
実際に行ってみると、想像より何倍も素晴らしかったです。全身に美しい音の洪水を浴びているようでした。2時間があっという間に感じるくらい息も吐かせぬ緩急の効いた演奏で、夢のような時間を過ごすことができました。

 

しかし、どうしても悲しく悔しく、素晴らしいコンサートに影を落とすような出来事があったので筆をとりました。

コンサートマナーのことです。

たった1つのマナー違反が、すべての観客を不幸にしてしまいました。

 

 

コンサートは以下のスケジュールで行われました。

 

ドビュッシー 2つのアラベスク

  第1番 ホ長調

  第2番 ト長調

ドビュッシー 映像第1集

  1.水に映る影

  2.ラモーを讃えて

  3.運動

ラヴェル ソナチネ

  第1楽章 中庸の速さで

  第2楽章 メヌエットの速さで

  第3楽章 生き生きと

 

     ー休憩ー

 

ショパン スケルツォ

  第1番 ロ短調

  第2番 変ロ短調

  第3番 嬰ハ短調

  第4番 ホ長調

 

     ーアンコールー

ドビュッシー 月の光

映画羊と鋼の森 テーマ曲(ピアノソロアレンジ)

ショパン 革命

 

 

 前半の最初、ドビュッシーの流麗なアラベスクは、辻井さんならではの1音1音まで透き通るような繊細な調べで、思わず溜息が出るような美しさでした。続く映像の第一集は、凪いだ湖面のような荘厳さ、急流のような激しい音の雨、美しく重なる波紋のような淀みない旋律が特徴的な1番、郷愁を誘うような重厚で落ち着いた響きの第2番、くるくると動き回り軽やかに弾むような、心浮き立つような楽しさで魅せてくれる第3番と変化に富んだ演奏でした。美しい旋律に心奪われ、全身で音を感じるうちにドキドキと胸が高鳴り、音楽の盛り上がりに合わせて自然と涙がこぼれてしまいました。

ラヴェルソナチネは超絶技巧であるにも関わらず、全く気負いも感じさせない余裕ある演奏で、美しいだけでない奔流のような激しい調べに圧倒されました。

あっという間に前半が終わり、興奮の覚めないまま気が付いたら後半に移っていました。

 

後半はショパンスケルツォ

第1番は象徴的な和音を起点に怒涛の勢いで流れていく旋律が印象的でした。激しいのに雑にならず、1音1音のプレッシャーまで感じるような演奏なのに、穏やかな楽想に違和感なく続いていくのが惚れ惚れするくらい見事でした。第2番は一番よく耳にする有名な旋律で、辻井さんのCDにも収録されているのでリラックスして聴こうと思っていました。しかし、過去のCDをずっと上回る演奏で、豊かな音の色彩を感じるような、最早オーケストラを聴いているような音の層の厚みに感嘆しました。第3番はオクターヴの主題の繰り返しが烈しくも美しく、高い音階の澄んだ音まで感じられる演奏でした。最後の第4番は、3番までの烈しさや流転する旋律をまとめ、包み込むような優しさを感じる演奏でした。長い曲でありながら最後まで全く乱れず、どんどん美しくなるようにさえ感じました。

 アンコールまでたっぷりと堪能し、この上ない贅沢な時間を過ごすことができました。

なのに、やはり1つの事件が心残りでなりません。

 

事件は後半のショパンスケルツォ、第4番あたりで起きました。

あまりにショックで、厳密にどの段階で起きたのかはわからなくなってしまいましたが、第2番より後だったと思います。

 

1階席の中央より前よりで、ひとりの観客の携帯が鳴り響きました。

 

ポップな歌のような着信音がぎょっとする程の音量で鳴り響き、前方の観客の数人が振り返りました。あの距離では、間違いなく辻井さんにも聴こえたと思います。

着信音を鳴らした人は、必死でコートで包み込んで小さくしようとしていました。扉から出ようとしても出られなかったようで、ハイヒールの靴を脱ぎ、コートで携帯を抑え込んだまま暫くして席へ戻りました。時間にして1分くらいは鳴っていた気がします。

美しい演奏に夢中になっていたときに、場違いな大きな音が耳に入り、とても驚きました。折角の演奏に集中できず、何だか悲しい気持ちになりました。

 

コンサートホールでは上演前に繰り返しアナウンスをしており、携帯電話のアラームを解除するように、電源を切るように予め周知しています。

携帯を鳴らした人に対する不快な思いは簡単には消えてくれません。ずっと楽しみにしていたコンサートに水を差され、純粋に音楽を堪能することを邪魔されたことが厭で仕方ありませんでした。

やっとの思いでコンサートのチケットを取った人も、久しぶりに楽しみにしていた人も居たと思います。それに何より、素晴らしい演奏を聴かせてくれた辻井さんへの侮辱に当たると思います。こんな酷いマナー違反があっても、嫌な顔一つせず和やかに挨拶をして、アンコール3曲も素晴らしい演奏を聴かせてくれた辻井さんには感謝しかありません。観客のせいで弾きにくかっただろうし不快に感じて当たり前なのに、最高の演奏を最後まで聴かせてくれたことに只々頭が下がりました。

 

コンサートは、素晴らしい演奏を届けてくれる演奏者に感謝をして、観客一人一人が満足できるものであってほしいと願います。

誰かひとりの軽率な行為が演奏者に不快な思いをさせ、観客全員の気持ちを踏みにじるなんて事態は、今後起こらないでほしいです。

今回マナー違反をした人に届くかどうかはわからないけれど、自分の行為が多くの人を傷つけたことを知ってほしいと思います。

 

掛け値なしに素晴らしいコンサートでした。

次は一点の曇りもなく、『素晴らしかった』とだけ言いたいです。

 

レフレールファンクラブイベントに参加した話

先週日曜日、レフレールのファンクラブ限定イベントに行ってきました。

ファンクラブ会員になってから長かったけれど、こういう限定イベントには足を運んだことがなかったので、不安と期待でドキドキしながら参加しました。

 

普段のコンサートとは違って、ちょっとアーティストを身近に感じられる素敵なイベントでした。

内容はこんな感じです

トーク(守也から圭人へ)

抽選コーナー

ソロ演奏

 守也(カッコいい同様メドレー、新曲、未発表曲)

 圭土(ocean、未発表曲2つ)

レフレール演奏

 cross第一~第四

 ブギウギバックトゥヨコスカ

握手会

 

最初から結構テンションが高かったので驚きました。客席から扉に向かって「守也ー!!」とか「圭土ー!!」とか叫ぶのはちょっと恥ずかしくて、ひっそりと小声ですませてしまいました。

トークではお二人のいまハマっているものとか、活動状況とか、SNS掲載禁止の最新情報まで話題が盛りだくさんでした。食べる鰹節なんてはじめて聞いたのですが、お店に売ってるのでしょうか。今年上半期がもう終わってしまうけど、レフレールの活動をまだまだ注視しなきゃという充実っぷりに嬉しくなります。

ビッグイベントが目白押しなので、最新情報をチェックするなら、会員の方でないならtwitterあたりがいいかと思います(公式HPだと、定期的にチェックしないと結構見逃してしまうので…)。一年中なにかのツアーかイベントがあり、全国を回っているので忙しくてもなんとか年数回は行ける日があるのは有難いです。

 

 

ワンマンライブよりも色々なアーティストとのコラボが増えてきたのは人気が出てきて嬉しい反面、ちょっとさみしくもありましたが、ファンクラブイベントはレフレールの世界に浸れて、ちょっといつもより身近に感じられて楽しかったです。

握手会なんて今までの人生で一度も参加したことなかったけど、好きなアーティストと対面するって凄い緊張しますね。わたしはかなり挙動不審だった気がします。

 

躍動感あふれるピアノ演奏はやっぱり生で聴くとエネルギッシュで、CDでは味わえない満足感がありました。今回のイベントで弾いていた、crossシリーズを最後に貼っておきます。

 

Cross(DVD付き)

Cross(DVD付き)

 

 

緊張、気遣い、疲れる春に聴きたい音楽

4月って、1年で一番休まらない月だと思います。

長い冬が終わり、花粉に苦しめられているうちにあっという間に4月が来て。特に連休もないまま突入するので、疲れが残る人が多いかと思います。

新入生と新入社員で電車は混んでるし、どこか浮足立った空気があって、なんとなく気疲れもします。

その割に、新生活とかフレッシュな気持ちや意気込みを社会から求められているようで(実際、会社ではよく目標とか聞かれるし)、ほっと肩の力を抜きにくい4月。そんな時期に一息つくために、わたしがよく聴く音楽をご紹介します。

 

<おすすめ曲TOP3>

1位 Club IKSPIARILes Freres


5 CLUB IKSPIARI レフレール Les Freres

4手連弾ピアノユニット“レ・フレール”のアルバム「Anime de Quatre-Mains」から。

アニメ曲を編曲したアルバムで、ジブリやディズニー等、馴染みの多い曲をピアノでブギウギ風にアレンジした作品集です。

選んだ1曲はメドレーとなっていて聴きやすいです。ゆったりしたクラシックもいいけど、聴き馴染みがあって明るい曲調は、ほっと一息つくのにぴったりです。

ちなみにアルバムはこちら。

 

Anime de Quatre-Mains-アニメ・ド・キャトルマン-

Anime de Quatre-Mains-アニメ・ド・キャトルマン-

 

 レ・フレールに関して過去記事で触れているので参考までに。

 

zaramechan.hatenablog.com

 

 

2位 銀河英雄伝説(旧アニメ版作中クラシック曲)メドレー


銀河英雄伝説クラシックメドレー

今年4月から、田中芳樹氏原作小説の新作アニメが公開され、東京各地の駅では名言ポスターなど貼られているそうです(見に行きたい)。

この小説は大好きなので、後で別記事で語る予定です。この小説は以前にもアニメ化されていて、本伝110話外伝52話の作中BGMがほとんどクラシック曲だったことで知られています。有名曲がたくさんあり、「ああ、聴いたことあるな」とゆったりしながら読書やお茶のお伴におすすめです。

 

 

3位 祖母のコロッセオハット


祖母のコロッセオハット『びじゅチューン!』

井上涼作詞作曲の「祖母のコロッセオハット」。

NHK Eテレ水曜午後7時50分開始の「びじゅチューン!」という番組で放送された曲。イロモノ枠?です。

何気なくテレビをつけたときに流れていて、「何だこれ??」となって調べてしまいました。1回聞いただけで耳に残る変な(ほめ言葉)リズム、歌詞、絵柄でした。肩の力を抜くにはぴったりです。他にもこの番組で紹介された曲は面白いのばかりなので、調べてみてください。

www.nhk.or.jp

 

以上、おすすめ曲でした。お読みいただきありがとうございます。

 

辻井伸行 日本ツアーdebut10years に行ってきました。

今日、東京サントリーホールで行われた辻井伸行さんのピアノコンサートに行ってきました。

昨年10月のラフマニノフのピアノ協奏曲を聴きに行って以来で、今年初の演奏はやっぱり素晴らしかった。オーケストラとの共演もいいけれど、ピアノリサイタルだとじっくりとピアノの1音1音が聴けるのがお得に感じて好きです。今回も、繊細な透き通った音と激しい熱のこもった音を自在に使い分け、癒しと圧倒を同時に感じさせる奇跡のような演奏でした。この興奮の冷めやらぬうちに、ルポとして書き残しておきます。

 

さて、本日演奏した曲は

 

ー前半ー

英雄ポロネーズショパン

月の光(ドビュッシー

亡き王女のためのパヴァーヌラヴェル

水の戯れ(ラヴェル

ラ・カンパネラ(リスト)

 

ー後半ー

3つの前奏曲ガーシュウィン

Ⅰアレグロ・ベン・リトマート・エ・デチーソ

Ⅱアンダンテ・コン・モート・エ・ポコ・ルバート

Ⅲアレグロ・ベン・リトマート・エ・デチーソ

 

3つのジムノペディ(サティ)

Ⅰゆっくりと、痛ましげに

Ⅱゆっくりと、悲し気に

Ⅲゆっくりと、おごそかに

 

8つの演奏会用練習曲 作品40(カプースチン

Ⅰプレリュード

Ⅱ夢

Ⅲトッカティーナ

Ⅳ思い出

Ⅴ冗談

Ⅵパストラール

Ⅶ間奏曲

Ⅷフィナーレ

 

ーアンコールー

別れの曲(ショパン

ジェニーへのオマージュ(自作曲)

 

 

前半は、最早定番となった英雄ポロネーズから。

力強いパワフルな音と極彩色のように華麗な旋律で開幕から盛り上げます。辻井さんの弾くこの曲は、こんなにも音数が多く重層的にできていたのかと驚くほどで、流石定番となるはずだと納得させられます。

次曲はドビュッシーの月の光。日本人に人気の曲で、静かな夜にやさしく降り注ぐ光のイメージが浮かぶ曲です。ベートーヴェンの月光と比べると随分印象が違うのが面白いです。英雄ポロネーズの烈しさから一転、ホールを包み込むようなやさしい主旋律がはじまり会場の空気を変えてゆきます。1曲目から鮮やかに変化する演奏は、聴いているだけなのにジェットコースターに乗っているような驚きを感じさせます。何度も聴いたことのある曲でもドキドキしました。

続いてラヴェルから2曲。亡き王女のためのパヴァーヌと水の戯れ。前者は主旋律が1音ずつ弾かれるこの曲の特徴を生かし、1音ごとの余韻が心地よく耳に残る、しかもそれが全く濁らない演奏が見事です。後者は水面の波紋が次々と浮かんでは消えてゆくような複層的なメロディで、CDで聴いたときよりもキレが鋭くなったと感じました。清らかなだけでなく、奔流のような烈しさも内に秘めているようなイメージで、生演奏だから余計にそう感じるのかもしれませんが、全く観客を飽きさせない緩急のきいた演奏でした。

前半最後はリストのラ・カンパネラ。こちらも定番となる曲で、アンコールなどでもよく演奏しているのをみます。今日の演奏は重厚さを感じるスタイルで、私見ですが辻井さんのラ・カンパネラはCDを比較したりコンサートごとに比較してみると、割と弾き方が大きく変化しているように思います。速さや軽やかさ、重厚さなど、ときによって受ける印象が異なり面白いです。素敵でしたが、私はもう少し軽やかさがあるほうが好みでした。

 

 後半はガーシュウィンの3つの前奏曲から。ガーシュウィンの曲はちょっと変わった、小気味よいような調子の曲が目立ちます。この曲もよく弾かれるものですが、いわゆるクラシックらしい曲というよりカジュアルな雰囲気があって、辻井さんの軽やかな演奏ともよくマッチしています。

続いてサティのジムノペディ。こちらを辻井さんが弾いているのを初めて見ました。有名な曲ですが、かなりシンプルでピアノリサイタルで弾く人はあまりいないのではないかと思います。音数が少なく、テンポもゆったりとしている曲で、その分1音1音がはっきり聴こえるのため、下手に弾くと物足りなく感じてしまう曲です。前半の月の光や亡き王女のためのパヴァーヌを聴いたときも感じましたが、シンプルだからこそ主旋律の明晰さ、1音ずつの強弱や鋭さ、柔らかさが如実に現れていて胸を打たれるような印象的な演奏でした。辻井さんのピアノは超絶技巧や激しく熱の籠った演奏もいいですが、やはり静かな曲、シンプルな曲の音の美しさがとても素敵だと感じます。まるでピアノではないような、特別な楽器のような美しい音色は彼にしか出せないものかもしれません。

後半最後はカプースチンの8つの演奏会用練習曲作品40。カプースチンウクライナ作曲家、ピアニスト、ミュージシャンで、1961年にモスクワ音楽院を卒業した後、2008年にもCDをリリースしている人物です。ジャズとクラシックの融合した音楽を多々生み出している独特な作曲家、演奏家であることが特徴です。現代音楽の枠に入るため、コンサートなどではあまり聴かないけれど、ジャズピアノなどに興味がある人には有名かもしれません。辻井さんもデビュー10周年記念のツアーを行うにあたり、新しく挑戦しようと選んだそうです。あまり想定していなかったジャズ寄りの曲でしたが、軽妙でウィットに富んだ演奏に、音の正確さ、旋律の滑らかさが相まって、まさにジャズとクラシックの調和を感じました。わたしは以前別の記事でも紹介したのですが、ブギウギピアノの演奏家レ・フレールのファンで、彼らの演奏を聴いたときに今まで聴いたことのない新しい音楽だと感動したのを覚えています。今回の辻井さんのカプースチンは、そのような新しい風を感じさせるピアノで、今後も彼の演奏はどんどん進化してゆくのだろうという予感を覚えました。

 

最後にアンコールを2曲。1曲目はショパンの別れの曲。3月という季節にぴったりだと思いながら堪能。ゆったりとした旋律から急転し、静かにやさしく終わる余韻を楽しめました。2曲目は自作曲から、ジェニーへのオマージュ。辻井さんの自作曲は、結構シンプルなものが多いです。最初の頃によくCDで出されていたものは、綺麗だけれども少しどれも似通った、特徴の少ない曲であるように思います。別記事でも紹介したのですが、作曲家でピアニストの清塚信也さんはドラマ等に多数書き下ろしています。彼の作る曲はドラマ等のイメージに沿いながらもかなり個性を感じる、耳に残る曲が多いところが凄いと思います。辻井さんの自作曲は比べると少し物足りなさがあるな、とちょっと感じていました(キャリアでいうと清塚さんのほうがずっと長いし、ピアニストとしてかなり多忙な辻井さんが作曲までこなすという時点ですさまじいのですが・・・)。

今回、ジェニーへのオマージュという曲を初めて生で聴いたのですが、今までの自作曲と何かが違うような印象を受けました。静かに流れ、和音が綺麗に流れるだけでなくどこか切なく、引き込まれるような音色で、奥行きを感じるいい曲だなと素直に感じました。ピアノだからこそ出せるまっすぐな旋律と複雑に絡み合う和音の調和、それがすごく素敵に思える曲でした(参考に載せておきます)。

 

 

ジェニーへのオマージュ 自作集[CD]+自作LIVE[DVD]

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日々進化してゆく辻井さんの色々な音を聴くことができて、とても豊潤で価値のある時間を過ごせました。生の音だからこそ、ホールだからこそ味わえる、全身で音楽を楽しむ感覚というのは得難いものです。ジャズとクラシックの融合であったり、自作曲への期待だったり、変わらず美しい音色だったり、ますます辻井さんの音楽を好きになった1日でした。

 

唯一の悩みは、皆が辻井さんの魅力に気づくと、ほんとにチケットが取れなくなって困るということですね。

 

↓ちなみに、記事内で触れた過去記事はこちら

 

zaramechan.hatenablog.com

 

 

zaramechan.hatenablog.com