zarameのブログ

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【おすすめ本2018】17冊目 上田早夕里①リリエンタールの末裔

おすすめ本紹介、17回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。

記事が長くなりそうなので、今回は分けて紹介していきます。

日本SF作家として、私が特におすすめしたい上田早夕里氏から1冊。

 

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)

 

 それぞれ舞台も趣向も異なる4つの作品から成るSF短編集です。

作品の概要を少し紹介していきます。

 

 

リリエンタールの末裔

 長編小説「華竜の宮」の世界が背景となっている短編。地殻変動による大規模海面上昇(リ・クリティシャス)が起こり、人類が残った高地と海上都市で生活するようになった近未来の世界が舞台です。高地出身の若者が、空を飛ぶことを夢見て海上都市で働くが、彼の前にはさまざまな障害が立ちはだかる。厳しい差別や暴力、激変した環境に適応せざるを得ない現実に歯噛みしながらも、ただ「飛びたい」という夢に突き動かされ、人生を駆け抜ける主人公の刹那の美しさを感じる物語です。

 

マグネフィオ

 社員旅行のバスの中で落盤事故に巻き込まれ、主人公と友人は脳に重大な損傷を負ってしまう。主人公が好意を寄せる女性と結婚した友人は、寝たきりで意思疎通が困難となり、主人公は人の顔を認識することができなくなる「相貌失認」となった。友人の妻は、「心全体の動きを立体的に見る」という機械に期待を寄せ、主人公に相談をもちかけるがー。人間の脳と意識、人工神経と「心」の在り方を問うた作品で、テクノロジーの先にある人の「心」の可能性を示唆する印象的な作品です。

作中に出てくる磁性流体アートを手掛けているアーティストのHPを以下に載せておきます。

児玉幸子 メディアアート 磁性流体彫刻 Ferrofluid Sculpture

 

ナイト・ブルーの記録

 海洋探査船に搭載された人工知能パイロットの動きを学習させるため、自らの意識を探査機を接続した人物の数奇な体験を描いた作品。やがてその人物は、探査機が触れている世界を制御室から直接感じるようになり、探査機が水をかく感覚、海水温の変化、潮のにおいや海中の音までも知覚できるようになる。人間が機械と接続され、自らを拡張して新しい共感覚、現実ともいえるものを獲得していく様子が、インタビューの記者の目を通して淡々と描かれる内容です。「マグネフィオ」と同様に人間の意識とテクノロジーの関係性に触れる内容ですが、抑えた筆致から全く違った読後感を味わえます。

 

幻のクロノメーター

 18世紀に活躍したイギリスのマリン・クロノメーター開発者、ジョン・ハリソンの逸話を元に、SFの要素を含ませてアレンジした物語。マリン・クロノメーターとは、外洋航海に使われる精密時計です。これがあれば、太陽や星の高度の観測から得られる船の現在時刻と、グリニッジ標準時刻を設定した精密時計の時差から経度を割り出すことができるため、船の位置を正確に把握することができます。精密時計の登場によって経度計算は遥かに単純になり、大英帝国が繁栄するきっかけの一つになったとも言われています。この短編では、時計に魅せられ、生涯を捧げた人物を一人の少女の視点から生き生き描き出しています。国家に囚われる技術者の苦悩と誇り、技術への憧憬と裏腹に浮かび上がる危険への憂慮。近未来のSFの印象が強い著者でしたが、この作品は歴史を舞台に書いたSFとして、最近出版された長編「破滅の王」へつながる著者の歴史観を感じることができる物語です。

マリン・クロノメーターについて、セイコーのHPに簡単な解説が載っていたので、興味のある方はどうぞ。

museum.seiko.co.jp

 

長くなってしまったので、次回は引き続き上田早夕里氏の短編「夢見る葦笛」を紹介していきたいと思います。