本の虫生活

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2019年ベスト本10選

もう年越しまであとすこし。

今年読んだ本の振り返りを兼ねて、読んだ本の中でベスト10を選びました。

今年は新しい本からあまり読んだことのなかった海外小説、話題の本もランクインしました。

素敵な本が多くて選ぶのが難しかったけれど、特に衝撃的だった本を集めました。

それでは、以下発表。

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(画像は彦坂木版工房のパンカレンダー。質感がおいしそうで好きです。本文には何も関係ないありません)

 

 

 

 👑第1位 白銀の墟 玄の月

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

  • 作者:小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/10/12
  • メディア: 文庫
 

 今年の第一位は、待望の十二国記新刊に決めました。

わたしは18年待った訳ではないけれど、長く長く続きを待っていたファンの人達の熱気にちょっと驚きました。あれだけ長い間、新刊を待っていたファンがいるというのは、凄いなと思います。

十二国記はジャンルでいえばファンタジーだけれど、圧倒的な現実感、地に足のついた重厚な物語が魅力です。未読の方もこれを機に読んでみてほしい、辛くて厳しい世の中にこそ広めたい、不屈の意思を思い出させてくれる作品です。

※全然内容の紹介になっていないので、気になる方はよければ過去の記事もご参考にしてください

十二国記シリーズを簡単に紹介

 十二国記最新刊の感想

 

 

 👑第2位 リヴィエラを撃て

リヴィエラを撃て(上) (新潮文庫)

リヴィエラを撃て(上) (新潮文庫)

  • 作者:高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/06/30
  • メディア: 文庫
 

 今更ながら、髙村薫に撃ち抜かれました。を読んで仰天して、つづいて『神の火』を読んでスパイものの格好良さに悶えて本作『リヴィエラを撃て』で完全に虜になりました。スパイ小説というのは、ミステリやSF、歴史もの等に比べて流通量が少なく、柳広司の『ジョーカー・ゲーム』が流行ったときにすこし脚光を浴びた、というイメージでした。なので、髙村薫のスパイ小説を読んで、日本にもこんな重量級エンターテイメントのスパイ小説があるとは、本当にびっくりしました。

20世紀末の日本で起きた謎の男女殺害事件。「リヴィエラ」という謎の名前を残して亡くなった元テロリストの男と、世界的ピアニスト、イギリス、アメリカのスパイの関係とは…。内戦が続いた来たアイルランドとイギリスで、不毛の戦いを続けるテロリストの子ども、著名な貴族であり実業家として裕福な生活を送るが、自由のないスパイ活動に倦む男、世界で活躍しながら謎の失踪を遂げたピアニスト。どの人物も怪し気で、誰もが虚実入り混じる世界で、隠された真実を追っていくのはミステリのようでワクワクして、非情なスパイの世界に冷や汗をかき、自由を求める個人の戦いに惹きこまれる、最上級エンターテイメントで感情がぐちゃぐちゃになりました。

十二国記とどちらを一位にするか迷いました。今年は髙村薫の年でした。

☟以下に、他の本の紹介も書いてます

 

 

 

 👑第3位 三体

三体

三体

  • 作者:劉 慈欣
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: ハードカバー
 

 今年話題をさらった珍しい中国SFの新刊、『三体』。奇抜で展開の読めない物語がとても面白かったですが、まだ三部作の1作目なので、今回は3位としました。続く2作に期待します。

 文化大革命の時代に父親を殺された女性科学者が、天文観測所で宇宙からのメッセージを受信する。その日から、すべてははじまった。異星からの侵略、高度な知的生命体の襲来など、おおまかなイメージはよくある古典SFものだけれど、ディテールの作り方が奇抜で独特な作品でした。3つの『太陽』を持つ三体星系からやってきた知的生命体‟三体人”は、峻烈な気候に対応するため身体を特殊な構造に進化させ、生き残るために高度な知能を磨いてきた。強大な軍事力を持って征服を企むというより、高度な科学技術で地球の人心を動揺させる心理戦を仕掛けてくるのがまず意外で、さらに侵略される地球側から、三体世界の降臨を望む一派がおり、入り乱れた勢力争いが今後の展開をさらに読めなくする。三体世界への理解を浸透させるために作られた『VRゲーム』の不思議さも気になる。一回読んでもわからない、でももっと読みたくなる奇抜なSFでした。

 四千年の歴史をゲームに織り交ぜたり、文革の無惨さを垣間見させる描写が中国らしくてまた新鮮でした。

 

 

 第4位 菜食主義者

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

  • 作者:ハン・ガン
  • 出版社/メーカー: cuon
  • 発売日: 2011/06/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 第四位は韓国文学から。

読書会を通じて知った作品で、韓国の方が書いた小説ははじめてだったので少しドキドキしました。短いながらも切れ味鋭く、なあなあにして見ないようにしていた『現実』を眼前に突き付けてくるような迫力ある作品です。

タイトルの通り、「菜食主義」をはじめたある女性と、家族や周囲の人間を描いた連作短編集で、普通で目立つところがないと言われていた女性が、徐々に周囲の人間から「狂気」と思われる行動をとるようになり、どんどん日常が壊れていく、そんな経緯が淡々と描かれています。わたし達が普段ふつうと思っている生活、当たり前と思っている常識が、どれほど曖昧で頼りないものか、一度壊れてしまえば修復できないものか、或いは、脆いのになかなか壊れない、壊せないものか、そういうことを考えさせられました。過去記事で紹介をしたので、興味のある方はこちらもあわせてどうぞ。

 

 

 第5位 リラと戦禍の風

リラと戦禍の風

リラと戦禍の風

 

 推し作家上田早夕里さんの今年の新刊を選びました。『華竜の宮』で度肝を抜かれてからすごく好きになった作家です。

本作は第一次世界大戦の欧州を舞台にした歴史ファンタジー小説。上田さんの作品は幻想的な短編もいくつかあるけど、長編ファンタジーはなかったので新鮮な感じがしました。不死の力を持つ伯爵と、戦場で死にかけていた兵士、戦争孤児の少女が互いの孤独と傷をすこしずつ乗り越えていく物語です。悲惨な戦争の真っ只中で、できることは少なく未来へ希望も持てないけれど、できることを探して考える少女が眩しく、戦場で疲弊しきった兵士が束の間の平安を経て再び外へ出ていく、王道の冒険小説のような趣もある、著者の作品にしてはちょっと珍しい感じの小説です。ただ、ファンタジーtpはいえ巻末の参考文献を見ればわかる通り、徹底した時代考証に裏打ちされた描写は生生しく説得力があり、重厚さを失わないのは流石でした。今年は上海を舞台にした歴史SF『破滅の王』の文庫化もあり、新作も連載で執筆中ということで以前よりも話題になってきた気がして嬉しいです。興味がある方は以下もどうぞ

 ☟破滅の王 感想

 

 

第6位 春にして君を離れ

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 何気なく手に取ったクリスティの作品で、なぜか今年に話題になったのが不思議でした。

今までクリスティといったらポアロとミスマープル、王道の古典ミステリというイメージ(あまり読んだことはなかった)で、この本を読んでびっくりしました。「何も起きないミステリ」でありながら、驚異のどんでん返しの数々、人の心の機微を抉る繊細な心理描写、これが昔の作品とは思えない‟新しさ”を感じました。

遠くの土地へ嫁に行った娘を見舞った帰り道、大雨で汽車が止まってしまった主人公の女性は、足止めをくらう間の暇つぶしに自らの人生をゆっくりと振り返ることにした。順風満帆だけれどあっという間に過ぎていく人生を、自分のことをゆっくり考えることのなかった過去を、考えるにつれてなぜか自分の人生への疑問が湧いてくる。わたしは、本当に幸せだったのか、そして家族は、ずっと幸せだったのだろうか…?旧友に言われた言葉をきっかけに、自分の人生を振りかえると幸せと思っていた過去がどんどん塗り替えられていく、徐々に恐怖に震えるようになる心理描写は読んでいてヒヤッとさせられます。これを読んだ後、自分も主人公のようなことをしていないか、過去を振り返るのが少し怖い、けど考えずにはいられないという二律背反に陥ることでしょう。

 

 

第7位 月と六ペンス

月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)

 

 ずっと読もうと思っていた名作、月と六ペンス。

ゴーギャンをモデルにしたという狂気的な絵への情熱を描いた小説で、思っていたよりもずっと読みやすく一気読みできました。

 妻子を持つ平凡で目立たない男が、絵を描くことに目覚め元の暮らしも家族もすべて捨てて、命をかけて絵を描くようになる。周囲は男の真意を理解できないが、絵に魅せられ、あるいは男の異様な情熱に当てられ、ひとりふたりと道を踏み外していく。絵を描くこと以外のすべてを削ぎ落していく男は異様に映るけれど、周囲の人々は理解できないと突き放し、忌み嫌うだけでなく、彼に魅かれるものも出て来るのがこの小説の醍醐味です。

 「絵を描く」という根源的な欲求に突き動かされ、それ以外のすべてを捨てた彼の姿は、ある種の強烈な魅力があります。それは、ひとつ前で紹介した「春にして君を離れ」の真逆を行く生き方だからかもしれません。「菜食主義者」の紹介記事でも少し書きましたが、多くの人は「人と同じように、平凡で幸福な」人生にどうしようもないほど憑りつかれている一方、「全てを擲って一つのことに捧げたい、しがらみを投げ捨てたい」という想いも捨てられないジレンマを抱えています。根源的な欲求を追い求めたいという情熱は、それを叶えたくとも実行できない人間にとって毒になる、そんな感想が芽生えました。

 

 

第8位 悪魔が来たりて笛を吹く

悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

 

 今年に入ってどハマりしてしまった横溝正史

どの作品を選ぶかかなり迷ったけれど、横溝作品らしさの炸裂した、世にもおぞましく哀しい読後感の本作を選びました。

斜陽の貴族の家で、元子爵が突然謎の失踪を遂げたことをきっかけに次々と起こる殺人事件に金田一耕助が挑む、金田一耕助シリーズのなかでも有名な1作。不気味なフルートの調べを背景に、頽廃の色濃い一族が次々に惨劇に巻き込まれていく。不気味な紋章、秘密を抱える血族、世間を騒がせる毒殺事件との関係…。ページをめくっても先が読めず、惨劇は止まらないままラストへと続き、滅びていく華族の斜陽の夕べを見ているような、頽廃的で仄暗い印象の強い小説でした。もう盛り返すだけの希望もない閉塞感と、代を超えて引き継がれる憎悪の応酬、おどろおどろしい事件なのに、暴いてしまえば遣り切れない、くたびれた悲壮感が露呈してくるギャップが、横溝作品独特の持ち味で、今年はすっかりはまってしまいました。京極夏彦を読んでいるなら、大体好きかもしれないです。

 

 

第9位 パヴァーヌ

パヴァーヌ (ちくま文庫)

パヴァーヌ (ちくま文庫)

 

 読んだけれどよくわからない、難しいけど何だか気になる。とりあえずもう一回読んでみようかと思っている作品です。

サンリオSF文庫で昔出版されていた作品というのは、あまり知らないけれど奇抜で奇天烈な、個性豊かな作品が多いように感じます。今年参加した読書会で紹介されていたアンナ・カヴァンの「氷」という小説もサンリオSF文庫ですが、こちらも奇抜で頭に入りにくい、でも気になる変わったSF小説でした。

パヴァーヌ」は、キリスト教の権威が強く、産業革命が進まなかった欧州、という設定のSF小説です。読む前にそういう風に聞いていたので、歴史改変SFかと思ってワクワクして読んだら、想像の斜め上の展開に終始頭に「?」が浮かび続けました。蒸気機関車が異常に発達し、妖精が跋扈し、謎の「信号手」が活躍し、強権的な教会に反旗を翻す謎の道士とその支持者が泥沼の戦いを続ける…。設定はおおがかりなのに、描かれる舞台は極度に狭く、そのなかで生きる市井の人々の暮らしや感情をメインに描かれるので、読んでいながらあんまり「SF」っぽくないと感じました。この作品が出た当初「傑作だ」と話題になったそうですが、この読み取りにくい小説をすぐ読んで「傑作」と讃えた当時の読者たちはなかなか凄いなと思います。

連作でありながら、相互の繋がりが最初は全く見えてこないため、とりあえず読み続けないと全体像が見えてきません。でも、丹念に読めば見え方が変わってきそうな小説なので、再チャレンジしてみるつもりです。ちょっと腕木信号はやってみたい。

 

 

第10位 物理学者はマルがお好き

物理学者はマルがお好き (ハヤカワ文庫・NF)

物理学者はマルがお好き (ハヤカワ文庫・NF)

 

 ひとつは、小説じゃないものもランクインさせたいなと思って選んだ本。

「あなたの脳のはなし」とどちらにするか迷ったのですが、今回はこちらにしました。とっつきにくい現代数学や物理に興味を持たせる、人の気をひくタイトルが気に入ってこちらにしました。

ハヤカワノンフィクション文庫が好きで、時間をかけて読破していこうと思っているのですが、なかでも好きなのは脳科学、心理学と数学、物理系です。ふだん小説を読んでいるときとは違う頭を使っている感覚があるのでこういう本を偶に読むのは気分転換になります。正直なところ、頭に入った感じはそこまでないのですが、数学や物理の小話がときどき入ってくるので、内容はちょっと難しくても挿入話を楽しむことができます。それにしても、このタイトルはずるいな、と思います(褒めてる)。「何のことだろう?」と思った人はちょっと手に取ってみてはどうでしょうか。このタイトルの意図ははじめの方に出て来るので、ギブアップする前に読めると思います。福岡伸一氏の「生物と無生物の間」が刊行されて以降、科学者の書くエッセイや、一般向けの理数系ノンフィクションが何となく脚光を浴びてきた気がしていて、個人的にはもっと増えてほしい(あるいは復刊してほしい)です。切羽詰まった受験勉強が終わった大人や、勉強に疲れた学生に、学問の面白さを再発見させてくれる本として、ハヤカワノンフィクションみたいな科学系の本は最適だと思います。

 

 

 

以上、2019年のベスト本10選でした。

 

ここには書かなかった本についても、また別記事で載せていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

来年も、よいお年を。