本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【五十音順・おすすめ小説紹介】60冊目 フィリップ・K・ディック

おすすめ本紹介、60回目です。

 

こちらの連載記事はなかなか筆が進まず、久しぶりの更新がとうとう2020年になりました。今年はどんな本に出会えるかワクワクします。


読んで頂いている方はご存知と思いますが、この連載記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回はフィリップ・K・ディック氏。

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

 

 

 有名すぎて逆に選びにくいSF界の巨匠、ディック氏。

「電気羊」の方とどちらにしようか悩みましたが、今回は高い城の男を選びます。

あらすじを簡単に説明すると、「第二次世界大戦で勝利した陣営がもしも逆だったら」という「もしも」の歴史を描く歴史改変SFです。

あらすじを知ったときから気になっていて、確か2年前くらいに読みました。ドイツと日本が勝利した世界で、敗戦国となったアメリカの美術商の目を通して描かれる日本人やドイツ人、というなかなか想像できない、したことのない世界が描かれる刺激的な読書でした。

正直に言うと、ディック氏の文体はとっつきやすくはないので当時さらっと読み流してしまったところが多々あったと思います。思い出しながらこの記事を書いてみて、中国とイメージがごちゃまぜになった日本人像や、「わたしたちの(本当の)世界が虚構として描かれる小説」など、複雑な構造をイマイチ理解できていなかったと思ったので、今年はゆっくり読み直してみたいと思います。

 

おととしの年末に読んだ「チャパーエフと空虚」のように、欧米から見た日本は、中国や他の東南アジアのイメージと混ざりやすい、意外と曖昧で不明瞭なものなのかと思うとちょっと面白いです。ディックが執筆した頃はSNSもないし、日本のイメージ等かなり適当だったと思います。でも考えてみれば、わたし自身も欧米諸国の国ごとのイメージは漠然としていて、自分が持っているイメージと欧米の各国の内実はきっと大きく違うことでしょう。「高い城の男」を読みながら、奇妙な描かれ方をする日本人がちょっと面白かったのを思い出しました。

また、物語の構造として面白いのは、「虚構の物語のなかで、虚構として‟現実”が描かれる」という表現技法です。どこまでが虚構で、どこからが現実なのか、読みながら混乱するような、幻惑されるような独特の雰囲気が魅力です。捉えどころがなく結構読みにくさを感じますが、何度も読み返しても楽しめる作品だと思います。

 

ただ、わたしはディックの作品をあまり読んでいないので(電気羊と高い城の2作しか読んだことがないです…)、そろそろ再読と一緒にもう1作くらい挑戦してみようと思います。SFは好きですが、最近なかなか内容の濃い本に手が伸びていないので。

 

今年の初記事は以上でした。

今年は多くの人にとって楽しい1年になりますように