本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【小説が好き!の会】5/26読書会レポ

半年ぶりに、小説が好き!の会の読書会にお邪魔してきました。

久しぶりの参加でちょっとドキドキしながら伺ったのですが、相変わらず和気あいあいとした雰囲気で、活気ある読書会でした。

だいぶご無沙汰していたのに、結構覚えてくださっている方もいて何だか嬉しかったです。30人越えの大所帯だけあり、集まった本も壮観です。

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読書会のスケジュールはこんな感じ。

 

①自己紹介&アイスブレイク

 各テーブルに5~6人がつき、まず簡単に自己紹介をします。毎回簡単な質問が投げかけられるので、それに答えつつ進みます。今回は『好きな食べ物について』。トルコ料理やザーサイなど、割と個性の出る回答があって盛り上がりました。ちょっとしたアイスブレイクを挟むと緊張がほぐれていいですね。

 

②本紹介

 お待ちかねの本紹介。こちらの読書会では2冊持ってきて紹介する方が多いので、最初のテーブルで持ってきたうちのどの本を紹介するか悩みます。

ここで、今回紹介された本すべてを書こうと思ったのですが、すべてをメモすることはできなかったので割愛します。気になる方は記事の最初でupした写真を拡大して見て頂くか、小説が好き!の会さんのブログで毎回紹介された本の一覧を掲載してくださっているので、そちらを確認して頂ければと思います(ものぐさですみません)。ベストセラーなどではないちょっと個性的な本だったり、海外文学だったり、古典の名作だったり、はたまた最近出たばかりの本だったり。知っている本でも他人の紹介を聞くと何だか新鮮で面白いです。十二国記を紹介されていた人や、最近再読したゲイルズバーグの春を愛すや、個人的にハマりつつあるクリスティを紹介されていた方が居て、今回はいつもよりちょっとテンションが上がりました。最初はひとり10分程度話をするのは長いと思っていましたが、質問されたり盛り上がるのでいつもあっという間に感じます。

いつもながら30人越えの会で、2冊ずつ持ってきているというのに1冊も本が被らないことに驚きです。世にはこんなにたくさんの小説があるのだ、と感慨深い気持ちになるような、ならないような。

 

③全体シェア

 テーブルごとの紹介時間が終わると、ひとり30秒くらいで全体のシェアを行います。テーブルごとで盛り上がるのは楽しいですが、やっぱり折角の大人数なので皆さんの持ってきた本も知りたいです。この時間では短いですが、全員のおすすめ本を知ることができるのでいいシステムだと思います。あとでフリートークの時間や、飲み会のときに話をするチャンスがあるので、よく聞いておくとまた後の楽しみができます。

 

その後、もう一巡②、③を経てすべての本を中央に並べます。

 

各自写真を撮ったり、並んだ本を眺めたりするこの時間がわたしは好きです。

本屋や図書館以外で、たくさんの本が並べられているのを見ることはないので新鮮です。しかも、自分で選んだ本ではなくて、たくさんの人が思い思いの本を持ち寄り、一か所に集まるというのがちょっと感動します。

読書会は今でこそ普通になりましたが、よく考えてみると自分が学生のときなどは存在を聞いたこともなかったし、大人になってこんな機会があると知ってすごくワクワクしました。読書が趣味というとまじめとか、ぼっちとか何故か周囲に敬遠されることが多かったので、純粋に本が好きという人達で集まる機会ってすごく楽しいです。

 

読書会後の懇親会(こと飲み会)も物凄く行きたかったのですが、今回は仕事が修羅場なので不参加でした…。

読書会では遠い席であまり話せなかった人と話したり、読書会以上のコアなトークも楽しめるので、次回はぜひ参加したいです。

 

最後になりましたが、小説が好き!の会さん、本当にありがとうございました。

 

【アート×読書】ヨコハマ読書会参加レポ

先週の日曜日、ヨコハマ読書会さんに初参加してきました。

アート鑑賞会と読書会というちょっと斬新な取り合わせに心惹かれ、ドキドキしながらの参加でした。

 テーマ別読書会ということで、小説に限らず幅広いジャンルからあるテーマに沿って本を紹介するため、普段全く関わりのなかった世界を垣間見ることができました。

途中で中華街の人気店でのランチをはさみ、終始和やかでゆったりした雰囲気だったので初参加でも気兼ねせずに楽しめました。

 

当日の流れはこんな感じです。

 

①アート鑑賞会

タイトル、作者など情報をすべて伏せられた状態で、ある一枚の絵を鑑賞します。何も知らずにまっさらな状態で絵をじっくり眺めることは少ないので、ちょっと新鮮な感じです。

今回使用されたのは、ルネ・マグリットの『王様の美術館』。

(以下の横浜美術館のHPよりコレクション検索をすると、大きな画像で見られますので、ご興味のある方はぜひご覧ください)

一見シンプルでとっつきやすそうに見えますが、じっくり鑑賞してみると不思議なところがたくさんあります。青と黒を基調にした落ち着いた印象。中心に大きく男性の立ち姿が描かれていますが、男性の姿はシルエットと目、鼻、口以外は描かれず、背景が透けています。背景が無地で、後ろに透けて見える風景は青々とした山脈と薄曇りの空。山の向こうには何やら小さな赤い屋根の建物が描かれています。寒色系が大部分を占める絵なので、鮮やかではないけれどそこだけ赤がポツンと浮き上がり、眼をひきました。

シュルレアリスム現代アートとというのは、普段全く無知で知らないことばかりだったのですが、こうしてイベントで触れてみるともっと気軽に楽しんでいいものなのだと思いました。

何も知らずに見ていたときと、タイトルや絵の説明を聞いたあとで見るとき。それぞれに面白さがありました。

 

②ランチ会

 お昼ご飯は中華街へ。エビワンタンの有名なお店に行ってきました。

予約のためスムーズに入れましたが、外は行列で、さすが有名店という感じでした。こじんまりとしていて、なんと料理人1人で切り盛りしているようです。色々メニューがあったので、今度横浜に寄るときにまた行ってみたいです。

お昼ごはんを囲みながら、読書会前にリラックスしてお話ができたのもよかったです。読書会だと、時間内に本のことを話し合うだけであっという間に時間が経ってしまうので、ちょっと余裕を持って参加ができるというのもいいものだなと思いました。

 

③読書会

そして最後がお待ちかねの読書会。

アートに関連した本を持ち寄るということで、わたし自身とても本選びで迷いました。アートなど全然詳しいほうではないし、好きな本のなかで選ぶとなるとまた難しくて、でもそんな時間も楽しくて、ワクワクしながら臨みました。

 

紹介された本がこちらです。

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TOBACCO BOOK たばこの本(複数)
現代アート超入門 藤田 令伊著
現代アートと経済学 宮津 大輔著
手仕事の日本 柳 宗悦著
作家のおやつ コロナブックス編集部
イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画 杉全美帆子著
時の娘 ジョセフィン・テイ著
ドリアン・グレイの肖像 オスカー ワイルド著
僕らの色彩 田亀 源五郎
木をかこう ブルーノ・ムナーリ

 

ビジネス書や岩波文庫、おかしの本に漫画、絵の描き方の本など、想像以上に多岐にわたるジャンルからの紹介で驚きました。個人的には、一人は原田マハさんの本を持ってくると予想していたのですが、全く外れました笑。

アートと一言でいっても、アートと経済の結びつき、歴史上の位置づけ、宗教画、民芸品、民芸品の芸術性、芸術家そのものへのフォーカスなど、様々な切り口から考えることができるのだと目を開かされました。

わたしはブログで書いていることもあり、本といっても小説が8割くらいで他のジャンルはその合間に読むことが多いです。なので、雑誌やビジネス書などあまり読んでいなかった本の面白さを教わり、色々と興味が湧いた一日でした。それに一日でちょっとだけアート(特に現代アート)に詳しくなったような気がして、お得な気分でした。

 

盛だくさんの読書会でしたがあっという間な気がして、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。

最後になりましたが、イベントを主催してくださったヨコハマ読書会さんに心より感謝を。

素敵な一日をありがとうございました。

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】58冊目 筒井康隆

おすすめ本紹介、58回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は筒井康隆氏。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 筒井康隆氏は多作なので、どの作品を選ぶか悩みました。

映画が爆発的にヒットした『時をかける少女』や、少し前になぜか再ブレイクした『旅のラゴス』が有名ですが、それ以外にも熱烈なファンの多い作家です。

 

今回の記事で選んだ『家族八景』は、テレパス七瀬シリーズの短編集です。このシリーズは個人的に一番印象的だったので選びました。300頁に満たない短編集で、8編の短編から成ります。

主人公の七瀬は超絶美女で頭脳明晰の18歳で、住み込みの家政婦をしています。彼女は〔テレパス〕つまり人の心を読み取る能力を生まれつき持ち、その能力によって盗み見てしまった(或いは意図的に覗いた)家庭の内情をエグみたっぷりに書ききったのが本作です。シリーズでは基本的に七瀬の運命を中心に物語が展開しますが、この短編集ではあくまで彼女は傍観者。家政婦として垣間見てしまった〔家庭〕の歪な姿が生々しく描かれていて、テレパスという設定を生かした濃い1冊でした。

七瀬が勤める家庭は夫婦ふたりの落ち着いた暮らし、11人の子供がいる大家族、子ども夫婦と同居する家庭など、一見どこにでもある一般家庭です。しかし、一度扉をくぐりその生活に入ってしまうと、外からでは見えなかった滑稽で猥雑でどこか悲哀に満ちた〔普通の家庭〕が姿を現します。

男性、女性、子ども、青年、中年、老年、…。それぞれの人間の厭な部分、自分達の隠したい性質、目を背けたくなるような卑小さ、そういうものを余すところなく書ききった、凄みのある短編集です。人によっては合わない本だとも思います。でも、人間のそういうみっともないところ、駄目なところを描くことでかえって人間への愛おしさを示しているのかもしれません。

 

ただ、読んだことのない方にはすこしだけ注意を。こわい話、エグい話があまりにも苦手な人にはおすすめできません。最後の短編『亡母渇仰』をはじめて読んだときは息をのみました。テレパスでなくてはできなかった衝撃の結末。こんな作品を書くなんて、やはりただ者ではない作家だと痛感しました。

 

【不条理を読む】シーシュポスの神話

『異邦人』で有名な不条理作家、カミュの随筆『シーシュポスの神話』を読了しました。

シーシュポスの神話 (新潮文庫)

シーシュポスの神話 (新潮文庫)

 

 フランツ・カフカに代表される、所謂不条理小説はいまでは珍しくなくなりましたが、本作は不条理とはなにか、不条理は人間にどう作用するかを突き詰めた随筆(論説文に近い内容です)という一風変わった作品です。

なんとなくわかったような、全然わからないような読後感の多い不条理小説を理解するのを助けてくれる、‟不条理小説の解説書”というような印象を持ちました。

 表題の「シーシュポスの神話」は、たった8pの随筆です。文庫の大半は不条理に関するカミュの考察が続きますが、本記事ではこの8pの随筆について考えていきます。

 

シーシュポスの神話とは諸説あるが、神の怒りを買い無限の労働という罰を受けた男の悲劇です。日本でいう賽の河原の話に近い話です。

シーシュポスが課せられた罰は、大岩を山頂まで運び続けること。動かすだけで骨が折れる大岩を自分の肉体のみを使って少しずつ、少しずつ押し上げやっとの思いで山頂に到る。けれど山頂に着くや否や岩は斜面を転がり、麓まであっという間に落ちてしまう。そしてシーシュポスは再び岩を運ぶために、山を下りていく…。

無益で目的も目標もない労働に従事することこそ最大の罰であると言わんばかりの気の遠くなるような行為を、シーシュポスは課せられています。しかしそれは本当に不幸なのか。カミュは、不条理に見えるこの物語へ疑問を投げかけ、新しい知見を提示しています。

この神話が悲劇的であるのは、主人公が意識に目覚めているからだ。きっとやり遂げられるという希望が岩を押し上げるその一歩ごとにかれをささえているとすれば、かれの苦痛などどこにもないということになるだろう。こんにちの労働者は、生活の毎日毎日を、同じ仕事に従事している。その運命はシーシュポスに劣らず不条理だ。

 (「シーシュポスの神話」カミュ著 p213より一部引用)

もし彼が岩を運ぶ理由を知らず、いつか達成できると希望を持っていればそれほど彼の運命は悲劇的ではない。ですが彼は、自らの運命を熟知してしまっています。神に見放され、永遠に続く苦役を背負っていることを知っています(今日の労働者も同じくらい不条理だとカミュは指摘しますが、読んで少しヒヤッとした人もいるでしょう。そんなに目的もなく毎日を過ごしているつもりはないですが、それは願望、思い込みにすぎないかもしれません)。これだけ見ればシーシュポスは『不幸』に思えますが、カミュの主張はその逆です。

 このように、下山が苦しみのうちになされる日々もあるが、それが悦びのうちになされる日々もありうる。(中略)かぎりなく悲惨な境遇は担うにかあまりに重すぎる。これがぼくらのゲッセマネの夜だ。しかし、ひとを圧しつぶす真理は認識されることによって滅びる。

 (「シーシュポスの神話」カミュ著 p214より一部引用)

頂上を目がける闘争ただそれだけで、人間の心をみたすのに充分たりるのだ。いまや、シーシュポスは幸福なのだと想わねばならぬ。

(「シーシュポスの神話」カミュ著 p217より引用)

悲劇は、自らに起きている事象、運命を認識することではじまりますが、同時に人は認識することで運命を自らの手に取り戻すことができる。幸福を手にすることができる。カミュはそう説いています。

この世界の一切の不条理、悲劇は自分で認識も支配もできないから『不幸』なのであり、自らの悲劇(運命)を認識し、自分が世界を、自分の人生を支配しているのだと知ることは幸福である。人間は不条理を知り、幸福を知ることができる。そんな逆説的な論で本文は締めくくられます。短い文章ですが、最初のイメージを鮮やかに覆してくる新鮮な読書体験でした。

 

表題とともに、本書では不条理についての論証、考察が章ごとに展開されています。『異邦人』や『幸福な死』で描かれた不条理を、論理的に考察していく本書は、不条理小説を読み解くヒントにもなります。不条理と自殺についての論証は、カミュらしいというか、先入観を覆してくる文章でドキドキしながら読みました。キルケゴールショーペンハウアーを最近読み直していたので、こちらと比較しても面白かったのでおすすめです。また、ドストエフスキーカフカを読んでいる人はなじみ深い話も多いと思うので、合うかもしれません。

複雑で多様な側面をもち、人間とは切っても切り離せない『不条理』の世界を紐解く、知的好奇心をくすぐる1冊です。

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】57冊目 陳舜臣

おすすめ本紹介、57回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は耽美派から陳舜臣氏。

小説十八史略(一) (講談社文庫)

小説十八史略(一) (講談社文庫)

 

 古の夏王朝より遡ること数千年、神々の時代から宋末~モンゴルの覇権時代までを網羅した全6巻から成る大作。

中国の元の時代に編纂された歴史書で、『史記』『漢書』『三国志』などの18の歴史書をまとめたものであるため、十八史略という名前がついています。本書はその歴史書陳舜臣氏が小説仕立てにアレンジした作品です。

 

この作品は、わたしが高校生のときに世界史を勉強する代わりに読んだものでした。高校の世界史の授業だとほとんど近代以降しか習わないし、中国史などすべて無視だったので何となく気になっていて手に取りました。

しかし、すぐそんなこと関係なく物語に入り込み読みふけるようになりました。この本を読んでから三国志水滸伝、楊家将、武侠もの、果ては西遊記山海経、捜神記など手を出すほど中国の歴史や文化に魅了されたので、わたしの東洋好きはここから始まったと言っても過言ではありません。

 小説仕立てですが、時折筆者の解説が入ったり、短い話がテンポ良く続いていくショート・ショートの連作というような感じで、とっつきやすいし好きな時代だけ読むということもできるのがポイントです。『臥薪嘗胆』『呉越同舟』『三顧の礼』など、日本でもお馴染みの故事成語の元となった故事が盛りだくさんなのも見所です。中国ものの他の小説の副読本として重宝したり、故事成語を覚えたり歴史の勉強に使ったり、単純に小説として楽しんだり、色々な楽しみかたができる作品です。

 

簡単に各巻のあらすじを書いておきます。

1巻・・・神話の時代から夏、殷王朝の栄華と終焉、周の統一、そして始皇帝の台頭。    中国の長い歴史がはじまる群雄割拠と英雄の時代。

2巻・・・始皇帝の死後、再び混迷を深めた大陸の動乱。戦乱の末に勝利を勝ち取ったのは大帝国の漢。

3巻・・・名高い武帝を生んだ前漢も滅び、続く大王朝もなく短い帝位が入れ替わった時代。

4巻・・・後漢のあと、日本でも絶大な人気を誇る三国志の時代。三顧の礼赤壁の戦いなど三国志の主要な事件を網羅。

5巻・・・隋、唐の煌びやかな時代。大帝国の栄枯盛衰を描く巻。英雄豪傑の時代が終わり、文化の花開いた時代。

6巻・・・安史の乱の前に儚く散った唐のあと、再び混乱に陥った大陸。今までの騒乱とは違う、モンゴルの勢いの前に歴史が大きく動く最終巻。

 

 1巻から順に読むのがおすすめですが、好きな巻を1冊だけ読んでみるのもいいと思います。古代や三国志、唐の時代などを読んでおくと、漢文の授業に役に立つという嬉しい効果があったので、学生の方は勉強がてらパラパラ読むのもいいでしょう。

三国志水滸伝、楊家将、金庸武侠ものなどもこれを機に読んでみるといいかもしれません。武侠もの、日本でもっと流行らないかな…