【五十音順・おすすめ小説紹介】39冊目 桜庭一樹
おすすめ本紹介、39回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は桜庭一樹氏から2冊。
あるお嬢様学校を舞台にしたダーク系青春小説。
東京、山の手の一等地に敷地を構える名門女学校「聖マリアナ学園」では毎年「王子」こと学園のスターが輩出される。
女子しかいない平和で息の詰まる学園のなかで、偽の男を演じるのはもちろん女子。演劇部や生徒会など、美貌と家柄を誇り生徒から憧れの目線を向けられる品行方正な「女子」達が王子に選ばれている伝統に、あるとき風穴が開けられる。女子の花園に波乱を演出したのは、「読書倶楽部」という小さな部だった。
桜庭作品のなかで1、2を争うくらい好きな作品です。世間知らずのお嬢様たち、育ちがよく清楚で、明るさに満ちている普通の女子たちが事件に揺さぶられ、残酷さや移り気な非情さを露呈していく描写にゾクッとしました。
マイナーな派閥の「読書倶楽部」は、ときに「王子」が現れたり、落ちぶれた「元王子」を匿ったり、ひっそりとした小さな倶楽部にも関わらず台風の目になっています。
シラノ・ド・ベルジュラック等の外国の文学を読み込むなど、高い教養をみせる孤高の軍団「読書倶楽部」が「王子」を巡る狂騒と冷ややかに、ときに熱く関わっていくのがドラマチックです。やがて終わりの来る学園生活で、定められた「箱庭」の中で一時の熱狂に酔いしれる女子たちが微笑ましくも滑稽で、懐かしくも気恥ずかしい自分の学生時代を思い出しました。
2冊目がこちら。
1冊目とは打って変わって、狂おしい愛を描いた問題作です。
9歳で孤児となった女の子を、一人の若い男が引き取り家族となった。
場面は女の子、花が成長し結婚をするところからはじまる。結婚式の当日、養父の淳悟はなかなか姿を現さず、花は激しく不安に陥る。遅れてきた淳悟を見て、花のこころは過去へと飛んでいく。式はつつがなく終わったが、新婚旅行から帰ってきた花は、養父が部屋を引き払い、失踪したことを知る。
養父、淳悟との別れから出会いまで、アルバムを遡るように1章ずつ時は過去へ戻り、父と娘の秘された物語が紐解かれていきます。世界でふたりだけの家族、いくつもの秘密を抱えた行き場のない親子の罪の物語だと思いました。
禁忌を共有するふたりが互いに依存し、忌避しながら愛し合う描写が胸に重くのしかかりました。世間から逃げ続けなければならない苦境と、絡み合った相互依存の陶酔が混じり合って、腐臭のする醜さと純粋な美しさを文章から感じました。
この作品をはじめて読んだときは10代だったので、かなりドキドキしながらこっそり読んでいたのを思い出します。今思えば、ミステリやSFばかり読んでいた当時、甘美な「背徳感」を初めて知った読書だったような気がします。
設定や構成は真新しいものではないのですが、文章から感じるねっとりした匂い、温度、触感と「背徳」の狂おしい情が抜きんでています。
他ではなかなか味わえない読後感をもたらす本でした。
【五十音順・おすすめ小説紹介】38冊目 桜木紫乃
おすすめ本紹介、38回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は桜木紫乃氏。
北国のあるラブホテルで交錯するいくつもの人生を描いた連作短編集です。
話の舞台は既に廃墟となったラブホテル。次の話へ進むごとに時間が遡り、第七話ではホテル建設時まで時が戻っていく趣向で、訪れる人達の視点から廃墟となった建物の歴史をたどっていく構成となっています。
直木賞受賞作と聞いていたので、恋愛小説かと思って読んだらいい意味で肩透かしを食らいました。
第一話は夢破れたアイスホッケー選手と中学時代の同級生の物語。ケガで不本意に引退した男は、彼女に廃墟でのヌード撮影を依頼し、それを雑誌に投稿することに光明を見出そうとする。
第二話はお寺の住職の若妻が主人公。檀家離れに苦慮するなか、彼女にある支援の話が持ち上がるが…。
第三話はラブホテル廃業の前日譚。父の商売を継ぎホテルの管理をしていた女性は、廃業前に出入りのアダルトグッズメーカーの男と会い、ある提案を持ち掛ける。
第四話はとある夫婦の日常から。手狭なアパートで舅と同居する夫婦は、寝室も奪われ余裕のない暮らしをしていた。ある日、偶然浮いたお金を手にし、妻は夫にラブホテルへ行くことを提案する。
第五話は高校の教師と家出した教え子の高校生。妻の長年の不逞を知った教師と都会へ出てキャバクラで働こうとする女子高生の二人は、ラブホテルの扉をくぐるが…。
第六話はラブホテルの掃除婦とその家族の物語。子どもたちは皆家を出て働いており、足を痛め、働きに出ない夫と二人で暮らす日々。普段通りにホテルで働き、帰ってきた妻を夫は五右衛門風呂を沸かして待っていた。
第七話はラブホテル建設秘話。ラブホテル建設の夢に取りつかれた主人公は、妻や義父に猛反対されながらも、建設を諦めようとはしなかった。そんなとき、不倫相手の女性から『子どもができた』と告げられる。
どのお話もえぐいぐらいの現実味を伴っていて、綺麗な恋愛小説、純愛小説ではありません。
夢を失った諦念と未練、貧乏ゆえの不条理、停滞した暮らしへの鬱屈、不倫・裏切りへの失望。物語のように上手くいかない、閉塞感にあふれた日常とラブホテルを舞台に交わされる非日常の対比が心に残ります。
日常と地続きの非日常を過ごしても、何かが変わるわけではない。劇的な変化は起こらないし、どうしようもない現実からは逃れられないけれど、一瞬の場面がきらりと光ることがある。そういう印象を受けました。
モノトーンの日常に、1コマだけ差し込まれた彩色の世界を垣間見るような小説でした。
何もない海を見に行く
筆慣らしにお題について書いてみます。
好きな街と言われると、地元や入り浸る神保町、懐かしい横浜に一人でもよく行く熱海や箱根など、色々浮かびます。
でも、一番落ち着く場所は違います。
海が好きだけど人ごみは嫌い。
見るのは好きだけど泳がない。
そういう人へイチオシ、わたしの癒しスポット『国府津』です。
JR東海道線で東京から13駅。東京からだと1時間以上かかる海辺の小さな街です。
東京から神奈川に下ると、藤沢あたりで海まで来ます。実際に車窓から海が見え始めるのは大体平塚あたりです。
海水浴場なら、江ノ島周辺や大磯、もっと下って熱海などが有名です。
有名どころだとたくさん人が居て落ち着かないという人向けなのが国府津です。ただし、季節や時間帯によっては全くの無人だったこともあり、あまりの人気の無さにちょっと寂しくなったり怖くなったり、不安に駆られることがあったのでご注意を。夕方の薄暗い時間帯に行ったときは、犯罪にあっても誰も気づいてくれなさそう…というヒヤリとした気分になりました。行くなら午前中や昼がいいと思います。
でも、疲れたとき、遊ぶほどの元気がないときに行くにはいいところです。
国府津は快速が止まらない駅だし、砂浜が狭く観光客などはほぼ居ないため喧騒は少ないです。
あまりごみも無く、綺麗な景色が楽しめるのもポイントです。
また、国府津の駅はホームから海が見えます。意外と海が見える駅は少ないので貴重です。駅からはちょっと歩きますが、海が見える方向に歩いていけば着くので道も簡単です。
海を見てリフレッシュした後、どこかに行きたくなったら足を伸ばせば小田原等は近いし、東京に戻るなら大船から鎌倉へ行くのもアリです(遊ぶ元気があるなら、最初から小田原・箱根・熱海や江ノ島・鎌倉に行ったほうがいいかもしれませんが)。
疲れた気分を癒したい、一人でゆっくり過ごしたいという方は、一度行ってみてはいかかでしょうか。
※最後に注意を。
国府津は狭い砂浜と海だけなので、腰を下ろすところがないです。座って海を見たい場合はレジャーシート持参がいいと思います。
あと、飲み物などは駅前のコンビニで買っておかないと買う場所がないです。
ごみはきちんと持ち帰ることもお忘れなく。
折角綺麗な海ですから。
愛しのパン手帳
今年も残すところ3か月を切り、年末に向けて一気に加速していく様子を感じます。
毎年夏が終わり、秋が来るともう年の瀬まであっという間で、ゆっくりと日々を過ごすゆとりが少なくなってきます。
でも、わたしはこの時期が結構楽しみです。
来年に向けてカレンダーや手帳が店頭に並び、まだ来ぬ次の年を予感させる雰囲気が好きです。
今年も例年通り、早くも9月からスケジュール帳が本屋や雑貨屋に並んでいます。
昨年買ったカレンダーと手帳のセットがすごくお気に入りだったので、今年も同じシリーズを買おうと心に決めてお店を探し回りました。
なのに。
今年はカレンダーしかなかったのです(とてもショック…)。
昨年買ったものがこちら。
彦坂木版工房の手帳と、大判壁掛けカレンダーです。
手帳はB6サイズで薄いのでかさばりず、鞄に仕舞いやすいです。
木版画で描かれた温かみのある美味しそうなパンの絵が特徴的ですが、手帳の中身は無地で、後ろのノートページが多めに付いていて至ってシンプルです。パンのシールが付いてくるのも可愛くて、童心に帰る気持ちになりました。
カレンダーは卓上と壁掛けの二種類があり、毎月美味しそうなパンの絵をめくるのが楽しくなります。
カレンダーは2019年もあったのですが、手帳が今年は販売されておらず、とてもショックでした。
どうにか復活してほしいです。
ちなみに今年のカレンダーはこちら(買いました)。
卓上もあります。こちらも美味しそうです。
学研ステイフル 2019年 カレンダー 卓上 彦坂木版工房 パン M090-65
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お気に入りがなくなると悲しいので、好きなものは積極的に宣伝しておこうと思い直しました。
本もそうですが、消えてしまってからでは遅いので。
【五十音順・おすすめ小説紹介】37冊目 近藤史恵
おすすめ本紹介、37回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は近藤史恵氏から2冊。
数ある著者のシリーズのなかで一番好きな作品です。
主人公は会社などによくいる清掃員の女の子キリコ。本書は、清掃員である彼女がオフィスで起こる不可解な事件を颯爽と解決していく「日常の謎」連作ミステリです。
清掃員というと、地味な作業服で目立たずひっそりと仕事をしているイメージがある人が多いと思いますが、主人公キリコは全然違います。
おしゃれで華やかで若くて可愛い、一般の清掃員のイメージとかけ離れた快活な彼女はもちろん仕事も一生懸命で、生き生きと働いています。
彼女は、頭脳明晰で明るく仕事に取り組んでいるけれど、ときには世間から向けられる奇異のまなざしや心無い言葉にさらされます。傷つきながらも前を向いて立ち上がる姿に、読みながらエールを贈りたくなりました。
日常の謎ミステリは様々な作家が書いていますが、そういった探偵のなかでキリコが一番好きです。シリーズを追うごとに立場も変わり、悩みながら行動する彼女に愛おしさが募ります。
2冊目も日常の謎ミステリです。
著者は社会の中で主役ではない、不安や疎外感を感じる人たちに焦点を当てるのが上手いな、と感じます。
こちらの探偵役は認知症といわれている老人。専門学校を卒業してから就職がうまくいかず、フリーターをしている21歳の久里子のバイト先の常連客です。あるとき偶然、公園でこの国枝老人と出会った久理子は、認知症とはとても思えないような鋭い洞察を見せる彼に驚きます。公園では賢者になる国枝老人との交流を通して、先の見えない不安を抱え、立ち止まっている久理子が成長する様子を優しくほろ苦く描いた連作短編集です。
上で述べた、ひたむきで明るく努力するキリコも大好きですが、悩んで立ち止まってしまう久理子もすごく共感できて好きでした。
順風満帆にいく人生ではなくて、周りに置いて行かれたような気になって立ち止まる瞬間は、遅かれ早かれほとんどの人が通る道だと思います。でもそうやって立ち止まったときは、色んなことを考えるきっかけでもあります。そんなときは、悩める人へ示唆と勇気を与えてくれる本を読むのもいいかもしれません。
近藤史恵さんの描く日常の世界は、優しくはないけど希望もある、厳しいけど偶にご褒美もある、そんな世界が多いです。
ままならない自分の日常に疲れたときに読み返して、忘れていた希望を思い出せればいいなと思います。