本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【おすすめ本2019】58冊目 筒井康隆

おすすめ本紹介、58回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は筒井康隆氏。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 筒井康隆氏は多作なので、どの作品を選ぶか悩みました。

映画が爆発的にヒットした『時をかける少女』や、少し前になぜか再ブレイクした『旅のラゴス』が有名ですが、それ以外にも熱烈なファンの多い作家です。

 

今回の記事で選んだ『家族八景』は、テレパス七瀬シリーズの短編集です。このシリーズは個人的に一番印象的だったので選びました。300頁に満たない短編集で、8編の短編から成ります。

主人公の七瀬は超絶美女で頭脳明晰の18歳で、住み込みの家政婦をしています。彼女は〔テレパス〕つまり人の心を読み取る能力を生まれつき持ち、その能力によって盗み見てしまった(或いは意図的に覗いた)家庭の内情をエグみたっぷりに書ききったのが本作です。シリーズでは基本的に七瀬の運命を中心に物語が展開しますが、この短編集ではあくまで彼女は傍観者。家政婦として垣間見てしまった〔家庭〕の歪な姿が生々しく描かれていて、テレパスという設定を生かした濃い1冊でした。

七瀬が勤める家庭は夫婦ふたりの落ち着いた暮らし、11人の子供がいる大家族、子ども夫婦と同居する家庭など、一見どこにでもある一般家庭です。しかし、一度扉をくぐりその生活に入ってしまうと、外からでは見えなかった滑稽で猥雑でどこか悲哀に満ちた〔普通の家庭〕が姿を現します。

男性、女性、子ども、青年、中年、老年、…。それぞれの人間の厭な部分、自分達の隠したい性質、目を背けたくなるような卑小さ、そういうものを余すところなく書ききった、凄みのある短編集です。人によっては合わない本だとも思います。でも、人間のそういうみっともないところ、駄目なところを描くことでかえって人間への愛おしさを示しているのかもしれません。

 

ただ、読んだことのない方にはすこしだけ注意を。こわい話、エグい話があまりにも苦手な人にはおすすめできません。最後の短編『亡母渇仰』をはじめて読んだときは息をのみました。テレパスでなくてはできなかった衝撃の結末。こんな作品を書くなんて、やはりただ者ではない作家だと痛感しました。