【五十音順・おすすめ小説紹介】32冊目 北村薫
おすすめ本紹介、32回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は北村薫氏から2作。
「覆面作家」シリーズの1作目。
<あらすじ>
若手編集者岡部は、ある突飛な作家の元へ向かうように指示される。姓を「覆面」名を「作家」というペンネームを名乗る新人推理作家の正体は、豪邸に住む弱冠19歳の美少女だった。小説だけでなく現実の謎に、岡部とお嬢様が挑んでいく日常の謎ミステリ短編集。
探偵役が資産家の御令嬢で美少女で頭脳明晰という盛った設定ですが、このお嬢様の一番の魅力は繊細さと豪胆さを併せ持つギャップです。家の中ではまさにお嬢様といった清楚で控えめな性格なのに、一歩でも家を出ると活発すぎる豪快な振る舞いを見せる内弁慶ならぬ外弁慶。そんなお嬢様と編集者岡部のコンビが、小説だけでなく現実の世界でも名探偵として活躍する連作短編集です。
マンガやライトノベルのような設定で、ミステリ好きにとってはありふれた内容に感じるかもしれませんが、北村薫ならではの優しく繊細な筆致が冴えていて、ふっと心を和ませてくれる作品です。北村氏のミステリはしっとりと繊細な心の機微を描き、絡まった糸を解きほぐすような柔らかさを感じる作品が多いのが好きです。
「覆面作家」シリーズは次作「覆面作家の愛の歌」三作目「覆面作家の夢の家」もあります。二人のコンビの行く末まで描かれる最終話は、ドキドキしながら読めました。
そしてもう一作のおすすめがこちら。
「時と人」三部作のひとつ。
<あらすじ>
昭和40年はじめ、千葉の海岸付近に住む女子高生一ノ瀬真理子は、大雨で運動会の後半が中止になった夕方に家で一人、レコードをかけて目を閉じた。目が覚めると、「わたし」は桜木真理子42歳、夫と17歳の娘がいる高校の国語教師になっていた。
日常ミステリの名手として知られる北村氏の作品のなかでは、異色のシリーズだと思います。一気に25年もの歳月が経ったという現実を前に、真理子がどのように立ち向かっていくのか。ちょうど17歳くらいのときに読んだけれど、いまでも17歳の真理子のように強く生きていけるか考えると、ちょっと見習いたいと思います。
厳密にはシリーズではありませんが「ターン」「リセット」という別作品が三部作として有名です。時間に翻弄されるそれぞれの物語は、「日常の謎」作品より重厚で違った読後感を味わえます。馴染みはないけどどこか懐かしく感じる昭和の空気をリアルに感じられる描写にも引き込まれました。
同じ時間を繰り返し続ける「ターン」は、「スキップ」とは違った緊張感があり、最後まで展開が読めない面白さがあります。「リセット」はまた前の二作とは趣向が違います。前半からは「何がリセットなのか」全くわからないまま進み、第二部、第三部と読み進めてようやくその答えが明かされます。第二次世界大戦という戦時中の社会のなかで、容赦なく進んでいく時と運命に身を任せるしかない人生の悲劇と奇跡。時を超えて蘇る奇跡とは…。
大人向けの文学といった趣もあって、年を取ってからまた読み返したくなるような作品だと思います。
【祝直木賞候補入り】上田早夕里氏を勧めたい
先日、直木賞候補作品が発表されました。
受賞作が発表される前に、ノミネートされた上田早夕里氏について語りたいと思います。
まずは今回の直木賞候補に選ばれた『破滅の王』について。
<あらすじ>
1943年6月、上海。かつて『魔都』と呼ばれるほど繁栄を誇った町は、太平洋戦争を境に日本軍に占領されてから、かつての喧騒は感じられなくなった。
上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本敏明は、戦時中の重い空気や軍の圧力を感じながらも、科学による国際交流を重んじる研究所に馴染み、日々研究にいそしんでいた。しかし、日本総領事館から呼び出しを受け重要機密文書の精査を依頼されてから宮本の運命は急転する。
重要機密文書とは『キング』と暗号名で呼ばれる治療法皆無の新種の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は未完成のものであった。宮本は治療薬の製造を依頼されるが、遂行してしまえば自らの手で細菌兵器を完成させてしまうことになる。人としての矜持とそれを許さぬ時代の圧力の間で葛藤する科学者たちの奮闘、各国軍の暗躍、細菌兵器誕生の謎が絡み合い、各人がたどり着く真相とはーーー。
個人的には意外な結末だったので、これ以上は書かないでおきます。SFとして、雰囲気は高野和明『ジェノサイド』に似てるような気がしました。京極夏彦が好きな人なら、『邪魅の雫』に描かれる要素が入っているので併せて読むと、舞台となる満州事変以後の中国と日本の事情がちょっとわかる(気がするので)おすすめです。
細菌兵器を巡るサスペンスであり、歴史SFであり、人間の矜持を問うヒューマンドラマでもある作品ですが、著者ならではの膨大な資料を背景にした重厚な世界観のお蔭で薄っぺらくなることもなく、読みごたえたっぷりで楽しめます。SFやファンタジーであっても、時代や設定に見合った知識に裏打ちされた周到で緻密な世界観は、上田作品の魅力のひとつです。
著者のブログに関連記事があったので興味がありましたらどうぞ。また、ブログに記載されていますが、『シミルボン』というサイトで破滅の王の資料に関するコラムを著者が書いています。
その他、短編と長編について過去の記事で紹介したので一部載せておきます。
・短編「夢見る葦笛」
上田氏の作品を“お試し”するならこの短編集がおすすめです。1話が短く、数が多いだけでなく様々なジャンルの話がバランスよく収録されているので、どんな作家か気になった方へ最初に紹介したい1冊です。『破滅の王』の前身となった短編もあり、時代や構成は共通しているのに全く違った幻想的な雰囲気になっています。
・長編「華竜の宮」
最もおすすめしたい『オーシャン・クロニクル』シリーズ第1作。
小松左京『日本沈没』の地球規模バージョンといった設定のSFです。今回直木賞は破滅の王が候補作品ですが、完成度と緻密さはこのシリーズのが上手だと思います。
ここまで気合の入ったSFはそうそう読めるものではない。読んでるだけなのにめちゃくちゃ頭使った気分になりました…。続編の『深紅の碑文』も併せて読むと、また違った印象を受けました。
書きたいことは以下の過去記事にほぼ書いたので、気になった方は読んでみてください。
【五十音順・おすすめ小説紹介】31冊目 北杜夫
おすすめ本紹介、31回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は北杜夫氏から。
ブラジル移民を知っていますか。
「楡家の人びと」「さびしいシリーズ」「どくとるまんぼうシリーズ」「幽霊」「夜と霧の隅で」など、北杜夫氏の作品は名作揃いで、どれを選ぶかとても悩みます。
でも、わたしにとってこの小説が一番衝撃的だったので選びました。
国に後押しされ、ブラジルに渡った日本人たちの味わった壮絶な人生を眼前に蘇らせる大作です。
明治41(1908)年、第一回移民を乗せた船「笠戸丸」が神戸を出港し、800名弱の日本人がブラジルへと旅立ちました。
ブラジルは150万名もの日系人が住む、世界最大の日系人社会を持つ国です。日本でもブラジルから日系人が出稼ぎに来たり、移住するという話は耳にします。しかし、日系人が爆発的に増える切っ掛けとなった明治期のブラジル移民については、日本であまり知られていないように思います。
本書は、第一回の移民船がブラジルに向かうシーンからはじまり、最初の移民たちが如何に苦しみ、努力し、そしてブラジル社会の一員となっていったのかを克明に描いています。
2、3年の出稼ぎのつもりで一攫千金が見込めるという触れ込みを信じ、想像を絶する苦闘を強いられた最初の移民たちの生活描写が圧倒的でした。生い茂るジャングルの開拓、マラリアの猛威、農園で奴隷に等しい生活を強いられる人々。ブログでは書くのを躊躇うような悲惨な生活の実態に目を覆いたくなりますが、かつて移民政策によって辛酸を舐めた人達がいるのは事実です。実際は何があったのか、当時の人は何を想い、生涯を終えたのか。小説を読まなければ考えることもなかった歴史の一幕に、想いを馳せずにはいられませんでした。第2部では後に続く移民たちの話も描かれます。最初の移民たちより経済的に豊かな状態で開拓に臨み、全く違った生活を手に入れた人もいます。同じ移民と言っても、時期やほんの少しの違いで全く別の運命を辿る人がいて、実際の移民についてもっと知りたくなりました。
時代に翻弄されながら苦しみ、強かに、足掻きながら異国を生きた移民を描いた本書は全日本人に読んでもらいたい名著です(絶版でもう手に入れられないことがとても悔しいです)。北杜夫ほどの人でも、売れなければ絶版になるというのが出版業界の不況を表すようで怖くなりました。好きな本は早めに買っておくほうが良さそうですね…。
(以下は本の感想ではないので、興味のない方はとばして下さい)
「復刊ドットコム」というサイトでは、絶版になった本を投票で復刊するという事業を行っています。
もしどうしても手に入れたい本がある方は、一縷の望みをかけてみてもいいかと思います(わたしは本書「輝ける碧き空の下で」を投票したので、読みたいという方はご協力をして頂けるととても嬉しいです。本当に復刊するかは分かりませんが…)。
【五十音順・おすすめ小説紹介】30冊目 川名壮志
おすすめ本紹介、30回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回はジャーナリストの川名壮志氏から。
※※実際の事件を取り扱った重めのノンフィクション本なので、苦手な方はご注意ください※※
佐世保小六女児同級生殺害事件を覚えているでしょうか。
2004年6月1日、長崎県佐世保市の小学校で前代未聞の殺人事件が起こりました。被害者も加害者も小学生。あまりにも幼い年齢と、同級生をカッターで殺害するという陰惨な犯行の落差に社会が震撼した事件でした。
この作品は事件の被害者側に近かったある新聞記者が、事件を追い続けて書いたノンフィクションです。事件発生から加害少女への審判が終わるまでを追った第一部と、遺族、加害者家族の心情を聞き取った第二部で編成されています。遺族の傷口に塩を塗る行為に苦悩する記者の心情、被害者遺族でありながら報道機関の関係者として表へ現れる父親の姿、そして真意を読み取れない加害少女のまなざし。刻一刻と変化する捜査状況と事件の様相から、著者の困惑と葛藤が伝わってくる第一部。被害者の父、加害者の父、被害者の兄の3者のその後を聞き取った第二部。センセーショナルな報道の影に隠れていた事件の多面性と渦中の人々の苦悩を描いたルポタージュです。
僕は今、新聞記者をしている。
でも、最初のころ、新聞記者という肩書を持った僕と、ありのままの僕は、ずっとちぐはぐなままだった。まるで薄ぺらな体に、ぶかぶかの服を押し着せられたかのように。
あのころ僕はまだ若かったから、何者でもなかったし、若かっただけに、もしかしたら、まだ何者にでもなれたのかもしれない。
でも、あの蒸し暑い夏の日、人でなしに成り下がったあの日、僕は新聞記者になってしまった。
(「謝るなら、いつでもおいで」川名壮志著 新潮文庫 冒頭から引用)
少女たちが事件までに送っていた日常、家庭の内情、関係者の会話など、断片ではない事件の様相が明らかになるにつれ、他愛もない子供のケンカから何故こんな事件が起こってしまったのかとやり切れない気持ちになりました。
少女たちが交わしていた交換日記、HP、バスケットボール。事件を期に暴かれた少女たちの日常は、大人が知らない世界が広がっていました。子どもには子どもの世界があって、大人と共有せずに自らの力で作り上げた自分の世界は、自我の確立と個人の人生にとって大切なものです。しかし、大人がなにか気づけていたら、子どもだからと油断せずに子供たちの孤独や葛藤にもっと目を向けていたら、事件を防げたかもしれないと強く後悔する人々の吐露に胸を打たれます。「なぜ」と問いかけても答えの出ない問題だけれど、問わずにはいられなかった関係者の苦しみの一端に触れた気がしました。
また、著者自身が記者として身近に挨拶していた少女や家族を取材対象とすることに苦しむ心境が綴られているのが印象的でした。
「ごちゃごちゃやってるけどさ、はじめからわかりきったことなんだよ。こんな事件で『なぜ』がねーなんてのは‥‥‥、んでもよ、オヤジをうまく口説き落として‥‥‥『極上ネタが一丁あがり』‥‥‥たいした美談だよ」
酔いの回った先輩は、やがて別の話題に話を傾けていく。初めから終わりまで上機嫌の彼に、悪意がないのは明らかだった。それだけに、酒場での本音は、僕の生ぬるい自己満足に冷や水を浴びせた。
(「謝るなら、いつでもおいで」川名壮志著 新潮文庫 第二部から引用)
「本当のことを書きたい」と悩みながらも事件を追い続けた著者が、加害者の父親へのインタビューを終えて帰ってきたときに先輩から浴びせられた言葉。
自分の行為は、事件に一区切りつけたくて体のいい言葉を引き出しただけなのか。
結局、自己満足でしかなかったのか。
事件から時間が経過し、記事もまとまり安堵しかけた著者が、先輩の言葉で一気に過去に引き戻されるような描写にヒヤリとしました。
事件に関わってしまった人は、それ以前に戻ることはできない。
時間がゆっくりと癒してくれるとしても、失った現実は変わらない。
しかし、第二部最後に収録された被害者の兄の言葉からは「希望」というものが微かに見えてくるようでした。
「謝るなら、いつでもおいで」
読み終わった後、短い言葉に込められた想いの深さを噛み締めることになるでしょう。
レフレールファンクラブイベントに参加した話
先週日曜日、レフレールのファンクラブ限定イベントに行ってきました。
ファンクラブ会員になってから長かったけれど、こういう限定イベントには足を運んだことがなかったので、不安と期待でドキドキしながら参加しました。
普段のコンサートとは違って、ちょっとアーティストを身近に感じられる素敵なイベントでした。
内容はこんな感じです
↓
トーク(守也から圭人へ)
抽選コーナー
ソロ演奏
守也(カッコいい同様メドレー、新曲、未発表曲)
圭土(ocean、未発表曲2つ)
レフレール演奏
cross第一~第四
ブギウギバックトゥヨコスカ
握手会
最初から結構テンションが高かったので驚きました。客席から扉に向かって「守也ー!!」とか「圭土ー!!」とか叫ぶのはちょっと恥ずかしくて、ひっそりと小声ですませてしまいました。
トークではお二人のいまハマっているものとか、活動状況とか、SNS掲載禁止の最新情報まで話題が盛りだくさんでした。食べる鰹節なんてはじめて聞いたのですが、お店に売ってるのでしょうか。今年上半期がもう終わってしまうけど、レフレールの活動をまだまだ注視しなきゃという充実っぷりに嬉しくなります。
ビッグイベントが目白押しなので、最新情報をチェックするなら、会員の方でないならtwitterあたりがいいかと思います(公式HPだと、定期的にチェックしないと結構見逃してしまうので…)。一年中なにかのツアーかイベントがあり、全国を回っているので忙しくてもなんとか年数回は行ける日があるのは有難いです。
♫ レ・フレール「Piano Infinity」ツアーファイナルは、7/7 福島・郡山♫
— 1台4手連弾「レ・フレール」Official (@lesfreres_jp) 2018年6月25日
ニューアルバムをたずさえたツアーファイナル!七夕は郡山で!
7/7sat 14時 郡山市民文化センター 中ホールhttps://t.co/auxVHYwAmt#レフレール #ピアノ #連弾
ワンマンライブよりも色々なアーティストとのコラボが増えてきたのは人気が出てきて嬉しい反面、ちょっとさみしくもありましたが、ファンクラブイベントはレフレールの世界に浸れて、ちょっといつもより身近に感じられて楽しかったです。
握手会なんて今までの人生で一度も参加したことなかったけど、好きなアーティストと対面するって凄い緊張しますね。わたしはかなり挙動不審だった気がします。
躍動感あふれるピアノ演奏はやっぱり生で聴くとエネルギッシュで、CDでは味わえない満足感がありました。今回のイベントで弾いていた、crossシリーズを最後に貼っておきます。
- アーティスト: Les Freres
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2007/08/22
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