本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【手塚治虫文化賞受賞おめでとう】ゴールデンカムイが面白い

いま、凄くはまっているマンガ「ゴールデンカムイ」。

手塚治虫文化賞を受賞ということで、なにかと話題になっているうちにこのマンガの魅力について書いておきます。

 

 ※2018年5月28日まで、1巻が期間限定無料配信だそうです。もし気になっている方がいたらぜひお試しを(内容について、少々グロい直接的な描写があるので、苦手な方はお気をつけください)。

 

 “舞台は気高き北の大地・北海道。時は、激動の明治時代後期。

日露戦争という死線を潜り抜け『不死身の杉元』という異名を持った元兵士・杉元は、ある目的のために大金を欲していた…。

一攫千金を目指しゴールドラッシュに湧いた北海道へ足を踏み入れた杉元を待っていたのは、網走監獄の死刑囚が隠した莫大な埋蔵金への手掛かりだった!!?”

莫大な黄金を巡る生存競争サバイバルが幕を開けるッ!!!!

(公式HP http://youngjump.jp/goldenkamuy/index.html  より引用)

 

 

 あらすじの煽りだけですでに面白そう。単行本は現在13巻まで。おおざっぱにそこまで読んで感じた作品の魅力について語ります。

 

ゴールデンカムイにはまる理由3選

①マンガ好き以外にも響く緻密なプロット

②知られざる世界を垣間見れる独自性

③散りばめられたオマージュ

 

 

①マンガ好き以外にも響く緻密なプロット

 徴兵され、日露戦争を生き延びて帰還した元兵士が本作の主人公。戦場で亡くなった親友の妻の病気を治すため、ゴールドラッシュの噂を聞いて北海道にやってきた主人公は、全く砂金が獲れないことに落胆してるところに奇妙な話を耳にする。

 

アイヌ埋蔵金を奪った男が、網走刑務所で死刑囚たちに埋蔵金の在り処を示した入れ墨を掘り、「脱獄したら分け前をやる」と唆したという。

与太話として笑っていた主人公は、あるきっかけでその話が本当であったことを知り、金塊争奪戦へと参戦することになる。

北海道のゴールドラッシュ、脱獄王、羆の被害、日露戦争。実際の出来事を織り込みながら、埋蔵金を巡る冒険譚として細部まで計算されたプロットが人を惹きつけてやまないのだと思います。

さらにすごいのが、時代考証や膨大な資料をもとに描かれていると確信できる「密度の高さ」。当時の生活様式や服装、銃や植物、動物まで詳細に描かれています。著者インタビューからも著者のこだわりを強く感じます。

“たとえば、興味ないからといって銃器を描くのに構え方が変だったりするものは手抜きですよね。描くならできるだけ真摯に描きます。

 現在も連載を進めながら、つねに資料は買い増し続けています。1巻の杉元の軍帽は、今見ると、資料がなかったので下手ですね。”

(『ゴールデンカムイ野田サトルインタビュー 「もっと変態を描かせてくれ!」複雑なキャラクターが作品をおもしろくする!! http://konomanga.jp/interview/52634-2 より引用)

骨太の世界観と重厚感ある読み応えは、マンガ好きだけでなく小説好きにもぜひおすすめしたいです。

 

②知られざる世界を垣間見れる独自性

次に特徴的なのが、アイヌ文化を大胆に取り入れた物語構成について。

アイヌといえば、日本人のほとんどが耳にしたことはあるけど実態をほとんど知らないのではないでしょうか。アイヌについて少しだけ説明を。

アイヌ民族は、おおよそ17世紀から19世紀において東北地方北部から北海道(蝦夷ヶ島)、サハリン(樺太)、千島列島に及ぶ広い範囲をアイヌモシリ(人間の住む大地)として先住していました。

19世紀当初から20世紀後半まで、日本の中央政権は、アイヌ民族に対し同化政策を押しつけました。それでも明治期から第二次世界大戦敗戦前まで使用された国定教科書にはアイヌを「土人」と表し(行政用語ではM11から「旧土人」)、基本的にはアイヌ先住民族との認識 の下で公教育を進めてきました。戦後は、一転して国籍を持つ者「国民」としてだけで把握し、その民族的属性やそれら集団に対する配慮を欠くこととなりました。”

公益社団法人 北海道アイヌ協会HP  https://www.ainu-assn.or.jp/ainupeople/history.html より引用)

 

 同化政策の影響もあり、アイヌの文化が現在では多く失われたと思われます。作品中では、そんなアイヌが何を信じ何を食べて生活していたのか細部まで描かれていて、タイムスリップしてアイヌの人たちに出会ったような気分を味わえます。

明治期の北海道、日露戦争アイヌ文化など、読むだけで明確なイメージを持つことができます。特にアイヌについてここまで詳しく描かれている作品(特にマンガ)なんて、他にないんじゃないでしょうか。

 

③散りばめられたオマージュ

 最後に、作品内に意図的に仕組まれたであろうオマージュについて。キャラクターたちのさりげない構図やセリフのなかに、格闘技から絵画まで、さまざまなオマージュが隠されています。それを探してみるのも楽しみのひとつです。

これだけ緻密な話の組み立て、時代考証、文化や生活様式の調査をしながらオマージュえ混ぜてくる著者のこだわりにはほんとに驚きます。

 小説「ダヴィンチ・コード」でも題材となり、今もなお多くの謎を秘めているとして人を惹きつけるレオナルド・ダヴィンチの名画「最後の晩餐」。だれがどの位置にいるか、絵画を見ながら想像を掻き立てられます。

オマージュはこれだけではないので、自分で元ネタを探してみるのも結構楽しいです。もしかして物語の伏線になっている…?

 

 

 以上がゴールデンカムイの魅力3選です。これ以外にも、キャラクターが個性的ですごく濃いのが特徴だったり、話のテンポがよくて飽きないなど、言い尽くせない魅力があります。

ひとつ注意したいのが、戦争や羆との激闘、金塊を巡る血みどろの争いがしっかり描かれてことです。わたしは怖いのでそういう描写だけ薄目でみてます。特に羆ほんとに怖い。

 

最後に、ゴールデンカムイの世界をもっと楽しみたい人におすすめしたい本を貼っておきます。この作品のおかげで、吉村昭が流行ってきてる気がする…?

 

クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)
 

 

 

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)

 

 

 

 

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

 

 

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】24冊目 小川洋子

おすすめ本紹介、24回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は小川洋子氏からこちら。

 

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

 

 読んだらすこし、数学が好きになる作品。

 

2004年に第一回本屋大賞を受賞し、一躍有名になった小説です。

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた。

 事故の後遺症により記憶が80分でリセットされ、1975年以降の記憶を持つことができない老数学者の「博士」と、シングルマザーの家政婦とその息子の3人が織りなす、暖かくすこし切ない日常の物語。

  

この小説は、2つのテーマに沿って読み解けます。それが

・数式

・家族

です。

 

数式を通して世界を認識する博士の、子どものように純粋な数学への愛情が全編を通して描かれています。理系や学術的な話が多いかというと、意外と少なかったなと感じました。記憶障害を抱える博士の葛藤や、数学という学問に焦点を当てた作品なのかと思っていましたが、純粋に小説として楽しむ作品でした。

数式は博士の言語であり、世界を認識するためのツールとして表現されています。記憶を保持できず、新しい人と人間関係を積み上げることができない博士と、家政婦と息子の3人が、数式を通してつながることができる。重たく苦しい現実から少し離れて、誰でも平等に共有できる数学の世界が、ちょっと好きになりました。

 

もうひとつのテーマとして挙げた「家族」について。博士と家政婦とその息子の3人組が、日常を過ごすなかで交流し、疑似家族のような関係になっていくのが見所です。10歳の息子の算数の問題を一緒に解いてくれる博士は、急かすことなく、答えを教えるのではなく、子ども自身がわかるように、数式の美しさに気づくようにやさしく見守り導いてくれます。自分の子ども時代、こんな素敵な先生が居たらよかったのにと羨ましく思いました。

 

中盤以降、物語の転換点はありますが、大きな出来事もなく数式をスパイスにした穏やかな日常が積み重なっていく静かな作品でした。気疲れしたり、落ち込んだときにちょっと優しい気持ちになれる1冊です。わたしは大人になってからのほうが胸に迫りました。でも、子どものときに読むと、すこし数学が好きになるかもしれません。

昔読んだという方は、もう一度読んでみると違う感想になると思いますよ。

 

 

※最後に、数学についてもっと読みたい方へおすすめ

 数学界きっての難問「フェルマーの最終定理」を巡る数学者たちのノンフィクション。学術的な話が知りたい方へおすすめ。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

博士の愛した数式」著者小川洋子氏と、作品の助言を行った数学者藤原正彦氏の対談集。もっと作品の裏側を知りたい方へおすすめ。

 

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

 

 

 あとはマンガからひとつ。「明治失業忍法帖」(全11巻)に収録されている「冷蔵庫の中に象」という連作短編集。単独の単行本にはなっていないので読みにくいですが、数学の話をマンガで気軽に楽しめる作品なのでおすすめ。

 

明治失業忍法帖 1―じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 (ボニータコミックスα)

明治失業忍法帖 1―じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 (ボニータコミックスα)

 

 

【税金のはなし】都市計画税の土地代 = 固定資産税×2 って、どういうこと?

先日、固定資産税の支払いがあったので、ふだんはあまり見ない明細を見てみました。そこで気になったことが2つあります。

 

①固定資産税の徴収時、「固定資産税」と「都市計画税」の2種類が徴収されている

②「都市計画税」の土地評価額が、「固定資産税」に記載されている額の2倍である

 特に、②について納得できなかったので、少し調べてみました。

 

【①→固定資産税・都市計画税とはなにか】

わたしは、固定資産税は払わなければいけないものだとわかっていましたが、そもそも都市計画税なるものが一緒に請求されていることを知らず、ずっと過ごしていました(独身で賃貸暮らしでは、実家の支払いの状況など気にしたこともなかったので…)。

簡単に調べたのが以下の説明です。知っている人はとばして下さい。

 

・ 固定資産税とは

固定資産税は、土地・家屋(住宅、店舗、工場、事務所等)・償却資産(事業のために用いている構築物・機械等)を対象として、毎年1月1日(賦課期日)現在に所有する者が、価格に応じて納める税金。税率1.4%。

都市計画税とは

都市計画税は、街路・公園整備事業等の都市計画施設の建設・整備などの都市計画事業等の費用に充てるため、都市計画法による市街化区域内に所在する土地及び家屋を対象として、毎年1月1日(賦課期日)現在に所有する者が、土地及び家屋の価格に応じて、固定資産税とあわせて納める税金。税率0.3%が上限。

横浜市 よこはま市税のページ(固定資産税・都市計画税) より一部抜粋

  詳しい話は避けますが、気になる方は以下のURLがわかりやすいかと思います。

固定資産税・都市計画税|平成30年度税金の手引き|三井不動産リアルティ株式会社

 

 

【②→都市計画税の土地代 = 固定資産税×2ってなに?】

固定資産税と都市計画税は、だいたい土地代と家屋代の2つの金額が分けて記載されていると思います(形式は自治体によって異なりますが)。以下の図を見て頂くとわかりやすいのではないでしょうか。

f:id:zaramechan:20180516135745p:plain

以下URLより引用

固定資産税納税通知書・課税明細書の見方|払い過ぎチェック | 税金、社会保険の知恵袋

この例では家屋の額も異なっていましたが、わたしは同額でした。

さて、なぜこの「課税標準額」が異なるのか、結論から言うとはっきりとはわかりませんでした。しかし、価格が異なる理由として考えられる資料を見つけたので載せておきます。

 

f:id:zaramechan:20180516140709p:plain

 

 横浜市HPより引用

横浜市 よこはま市税のページ(土地についての特例)

図の右上を見て頂くと、固定資産税と都市計画税では、住宅用地・市街化区域農地の課税標準額の特例としてそれぞれ、×1/6、×1/3か ×1/3、×2/3という値が掛けてあります。このため、土地代や家屋代が異なるのではないかと思います。

(固定資産税・都市計画税課税標準は、地方税法の定めにより本来は価格が課税標準額となります。しかし、住宅用地については、税負担軽減のため課税標準の特例が設けられており、上の表により計算された額が本則課税標準額となるそうです。)

 

正確なところはわかりませんでしたが、都市計画税のほうが税率が低いので、特例率を下げて税収を上げたのかな、と思ったりします。

それにしても、「都市計画税」なんて徴収したなら、公園とか道路とか、整備してほしいですけど・・・・。

 

 

※参考

 地方税収の構成(平成30年度地方財政計画額)(総務省HP)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000537946.pdf

 

 

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】23冊目 円城塔

おすすめ本紹介、23回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は円城塔氏からこちら。

 

 「わからない(理解できない)ことを楽しむ」

これこそ、円城塔氏の作品の魅力だと思います。普段とは違う読書がしたい、新しいインスピレーションが欲しいという方におすすめです。

 

SF作品は、特に現実世界とはかけ離れた題材を扱うものが多いため、小説としては難しかったりわかりにくかったりするものも他の分野より多いです。それでも大抵は読んでいるうちに慣れてくるし、SFといってもタイム・トラベルものや終末ものなど似通ったテーマもあるので、読み進めればわかってくるものも多いと思います。

しかし、円城塔氏の作品はそういう安易な理解を拒絶しているような「理解しにくい」作風が持ち味です。

 

本作は以下の9つの短編で構成されています。

・パラダイス行
・バナナ剥きには最適の日々
・祖母の記録
・AUTOMATICA
・equal
・捧ぐ緑
・Jail Over
・墓石に、と彼女は言う
・エデン逆行

 

感情移入やストーリーの展開を楽しむ というより、新しい世界に触れられるような奇抜で不思議な後味の作品が多いです。

著者の作品にしては、読みやすいものが多いと感じましたが。

 

表題の「バナナ剥きには最適の日々」なんかは特に読みやすいのではないでしょうか(宇宙人を探し続ける無人探査機が、いつか出会うかもしれないバナナ型宇宙人を夢想する独白調の話。一向に見つからない宇宙人を探し続ける探査機が、架空のバナナ星人を妄想し、永遠の暇をつぶしつづけるという特にヤマもオチもない短編です。なのに何故か、読み終わるとバナナ星人が自分の頭に住み着いてしまう、中毒性のある話でした)。

 

個人的には、読後感が星新一氏に似ているような気がします。心にひっかかりを残す本です。

 

 

 

 

【GWを読書で終えてしまった】ヒトごろし読了

ことし1月末に発売された京極夏彦の著作「ヒトごろし」。

永久保存版「鉄鼠の檻」や、「鬼談」「虚談」など同時期に一気に発売されるという事前情報から、「鵺の碑」が発売されるのではと一部ファンが浮足立っていました(わたしもそうですが・・・・)。

 

しかし、新選組鬼の副長、土方歳三の生涯を描いたという「ヒトごろし」もかなり話題になってました。気になり、読もう読もうと思いながら手を出せず、このGWを使って読もうとようやく購入。迫力ある表紙と1000ページを超える「鈍器」と言われる分厚さが特徴です。 

ヒトごろし

ヒトごろし

 

 

新選組というと、小説からマンガ、ゲームまで取り入れられていて、現代風のイケメンや悲劇のヒーロー、悪役など色々な解釈がされていてかなり人気の高い人達なのではないかと思います。

 

しかし、この小説はさすが京極夏彦‥‥。

こんなに陰鬱に、淡々と残忍に描かれている土方歳三ははじめて見ました。

GWは晴天が多く、暖かいというより暑いくらいのまさに行楽日和といった天気のなかで、血腥い描写をゆっくり読み続けて放心している間にGWが終わってしまいました。

 自分を「ヒトごろし」と自称する土方歳三が、「人を殺しても罰せられない身分」を手に入れるため、新選組をつくったという大胆な設定の物語。攘夷や尊王、倒幕に佐幕と、百姓から武士まで様々な人間が理想や思想を語り、好き勝手に行動する様子を冷静に眺めている描写がヒヤリとします。「ヒトごろし」の外道と描かれる土方が一番、幕末の狂乱を冷静に眺め、現実を認識しているように見えるのがこわいところでした。

 

“幕府さえ倒せばどうにかなると思い込んでいる。強く激しく思い込んでいる。そうした思い込みがなければ、こんな仕打ちに耐えられる訳もないのだ。極めてー。

愚か者である。”

“戦争は、莫迦が命じて莫迦が行う莫迦な行為である。

その結果、大量に人が死ぬ。

だから。

戦争は、人殺しというこの上ない禁忌を無効化してしまう行いに他ならないのだ。”

 (小説より一部抜粋)

 

 

時代の流れや周りの状況を見ず、戦争を扇動する者たちを冷ややかに見て、愚かな行為だと断じる。

徹底して外道として描かれているのに、鋭い観察眼と読み進めるほどに共感できる部分が増えてくるのが不思議です。京極マジック。

 

土方歳三の生涯を時系列に、出来事を淡々と描写しているので予備知識が無い人には少し読みにくい仕様でした。すべて土方の一人称で語られているのに全く感情的にならないところが面白い。

 

爽やかさ0%のGWを送ってしまいましたが、これはこれで読めてよかったです。