本の虫生活

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2020年ベスト小説【ベスト10まで】

年が明ける前に、2020年に読んだ本のなかのベスト10を記録しておきます。

※2020年に出版されたというのではなく、単に2020年に読んだ本のなかで個人的なベスト10を選んでいます。

それでは、まず第10位から6位まで

 

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第10位『巴里マカロンの謎』

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
 

 11年ぶりの小市民シリーズ。

まさか、『冬』ではなく番外短編集という形で出るとは予想していなかったのでかなり驚きましたが、久しぶりの小山内さんと小鳩くんのタッグが読めて満足。昨年は十二国記シリーズの長編が出版されるし、2020年は小市民シリーズが出るしとここのところシリーズものの久々の再開があって嬉しい。2021年は鵺の碑が出たりして…(期待)。

【あらすじ】

高校生の小山内さんと小鳩くんは、ごく普通の小市民になることを目指して、ある「互恵関係」を結んでいる。普通に波風の立たない生活を求めるスイーツ大好きな小山内と、推理好きの小鳩くんだが、2人には中学時代の苦い経験があった。高校デビューとして目立たない「小市民」を目指す2人だが、なぜか周囲では不思議な事件や危うい出来事が目白押しで…。

よくある日常の謎系の学園ミステリだが、2人の強烈なキャラクター描写が魅力に溢れていて、米澤穂信作品のなかでも一番好きなキャラクターかもしれない。

 

 

第9位『人みな眠りて』

人みな眠りて (河出文庫)

人みな眠りて (河出文庫)

 

 クリスマスを題材にした小説を読みたかったので購入した短編集。表題の「人みな眠りて」がクリスマスを題材にしている短編だけど、その他も素晴らしい。ゲイルズバーグの春を愛す(絶対に手放せない大好きな短編集)のように上品で暖かく、心を豊かにしてくれる優しい物語集だと思う。

【あらすじ】※人みな眠りて

クリスマスが大嫌いな毒舌家の新聞記者ハックルマンは、気乗りしないクリスマスイルミネーションの審査員として駆り出されることになり、多いに苦り切っていた。新聞社のほとんどの人間が彼の横柄な態度やクリスマスへの罵倒を聞き、嫌気がさして険悪な雰囲気が漂っていた。金持ちの邸宅の主が用意した豪華絢爛なクリスマスイルミネーションで優勝は決まったかと思った矢先、そのイルミネーションの一部が盗み出され、大々的なニュースとなる。クリスマス嫌いな男と聖夜の奇跡とは?

独創的なアイディアが真新しいのに、読むと懐かしさを覚えるところがいい。

 

 

第8位『五匹の子豚』

 今年もクリスティ熱は冷めやらず。

名作と名高い「五匹の子豚」を読みました。

【あらすじ】

 16年前に父親を殺したとして容疑にかけられ、獄中で死亡した母を持つ娘から、ポアロへ一つの依頼が舞い込んだ。「母は父を殺していない。無実である」と訴える娘とだが、当時の事件関係者は一様に娘の母の犯行を疑っていなかった。本当に母は無実なのか、それとも無実を信じたい娘の願望に過ぎないのか…。過去の事件を関係者から聞き取り、少しずつ露わになる当時の事件の輪郭のなかで、ポアロがたどり着く‟真相”は、母の無実かそれとも。

ミステリそのもののトリックや犯人像の面白さもさることながら、事件に直接「関係なかった」事実が徐々に露わになる過程がスリリングで面白い。クリスティ特有の人物造形が冴えていて、誰が噓を吐いているのか、隠された本音はどこにあるのかと、ゆっくり読みながら探っていくと一層楽しめる。クリスティ作品、中毒性があって大変よい。

 

 

第7位『李歐』

李歐 (講談社文庫)

李歐 (講談社文庫)

  • 作者:高村 薫
  • 発売日: 1999/02/08
  • メディア: ペーパーバック
 

高村薫作品のなかで、気になっていた一冊。上海から来た美貌の殺し屋と、銃に魅せられた日本の若者の邂逅と激動の人生。好きな予感しかなかった。

【あらすじ】

 幼い頃母親が駆け落ちで失踪し、その後は平凡な生活を送ってきた大学生の青年、吉田一彰は、ある日バイト先の店で美貌の殺し屋の青年で出会う。大陸からやってきた謎の美青年の名は李歐。一瞬の邂逅かと思われた二人は、再開を経て惹かれ合うが、周囲の不穏な情勢に阻まれ、その距離は遠く離れていくが…。

同性愛、拳銃、頽廃の雰囲気…。映画を観ているような気分になる1冊。個人的にはリヴィエラを撃て、の次くらいに好きかも。

 

 

第6位『夏の厄災』

夏の災厄 (角川文庫)

夏の災厄 (角川文庫)

 

 多分、コロナ禍がなかったら知ることもなかった作品。

【あらすじ】

ごく普通の郊外の街で突如起こった謎の伝染病。とっくに撲滅された筈の日本脳炎に酷似した未知のウィルスを前に、行政や病院は必死の対応を行うも、感染と住民の不安は消えるどころか瞬く間に広まっていく。ウィルスの正体は何なのか。有効な対処方法は存在するのか。病院の陰謀説まで渦巻く中、ウィルスは思わぬところから正体を現し、一筋の希望へと繋がっていく。

容赦なく広がる感染と突然の劇症化、後遺症、そして不安からパニックになる人々。読むだけで背筋が凍るのに、もっと怖いのは小説を凌駕するスピードで今まさに広がる「コロナ」。通常の、コロナ禍の前に読んだら、ここまで怖いと思わず普通に楽しんだかもしれないが、今年読むと、小説よりも恐ろしい事態に陥っている現実が本当に怖かった。

年末になり、感染は過去最悪まで広まっている。一気に解決するとか、ほっとけば収まるとかいう事態でないことは分かる。最大限の警戒と忍耐を続け、決して楽観することなく、感染が広がらないよう私にできる全力を尽くし続けなければ。

 

  

***

 

以上、10位から6位まででした。

久しぶりのシリーズ新刊からクリスティの名作、コロナ禍に因んだパンデミック小説など、テンションの落差が凄いのでどれを何位にするか悩みました。

次の5位から1位も迷いに迷いましたが、新しい知見を、出会いを感じさせてくれた5冊を選びました。

 

では、5位から1位まで。

 

 

 

第5位『ソロモンの偽証』

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

 

とにかく、今年で1番エンタメとして楽しんだのがこの小説。

 【あらすじ】

クリスマスイブからクリスマスへ移る未明、14歳の中学生が学校の屋上から転落死した。不登校だった彼は、不幸な自殺なのか、事故だったのか、それとも…。様々な憶測が流れるなか、一旦は自殺として片付けられ鎮静化していた事件は、突如届いた告発状により一転騒動を巻き起こすことになる。中学校関係者へ匿名で出された告発状には、彼の同級生3人が屋上から突き落としたと書かれており、学校内外で不良として有名だった3人組を疑う声も大きく、マスコミも動き次第に事態は収拾がつかなくなる。そんな中、事件当時の中学2年生のクラスメイト達は、自分達で真相を掴むため、‟学級裁判”を開廷することを決意する。

中学生にしてはしっかりしすぎていたり、ちょっと荒唐無稽な設定が気になるものの、学級裁判の過程は読んでいて面白い。いじめや見て見ぬふり、子どもの傲慢さと繊細さの機微をつぶさに表現していて、10代とかは読むと身につまされすぎるくらいかもしれない。でも面白かった。

 

 

第4位『金閣寺

金閣寺 (新潮文庫)

金閣寺 (新潮文庫)

 

現実の金閣放火事件を題材にして描いた三島由紀夫の代表作。

三島由紀夫は独特のイメージが強すぎて苦手なんだけど、…読まされた。

【あらすじ】

 吃音と醜い容姿に悩む溝口は、幼いころから金閣寺を賛美していた父のはからいで、金閣寺の学僧となった。しかし、夢にまで見た実際の金閣はそれほど美しくないことに

落胆する。同じ金閣で修行に励み、溝口の吃音をバカにしない実直な青年鶴川と、大学で出会った障害を持つが心根の歪んだ柏木。二人との出会いを経て、少しずつ歯車は狂い始め、溝口は可愛がってもらった師から見放され、ついに金閣寺の放火という暴挙に出てしまう。

沖縄の、あの首里城の火災を思い出した。

焼け落ちていく城に悲嘆を、呆然とする人々の姿が放映されるなか、不謹慎だけど美しいと思ってしまった人はいるのではないだろうか。

 

 

第3位『13・67』

13・67

13・67

  • 作者:陳 浩基
  • 発売日: 2017/09/30
  • メディア: 単行本
 

香港の弾圧をニュースで見る度、重苦しい気分になる。だけど、そもそも私たちは香港を理解しているのか。知りたくなって読み、知ってより失ったものが大きかったのだと知る。

 【あらすじ】

香港警察の「名探偵」と呼ばれた伝説の刑事クワン。2013年、末期がんで余命僅かな彼のもとに、難事件の捜査で行き詰ったかつての部下、ローが訪れた。ローは難事件の解決のため、意識不明のクワンの脳に電極をつけ、推理させるという前代未聞の捜査を開始する。

2013年からはじまり、時代を遡り1967年まで時代を辿っていく連作短編集。正直、最初の短編はそこまでミステリとしても驚きはなかったけれど、ここ1年程度で大きく変わってしまった香港を追体験するような作品の全体の完成度がとてもよかった。ぜひ最後まで読んでこの感覚を味わってほしい。

こんなに近いのに、失われるまで、大々的にニュースになるまで知らなかった香港の歴史、一国二制度民主化というものがなんだったのか考えさせられる。

 

 

第2位『エレホン』

エレホン

エレホン

 

今年いちばん、とびきり変な本だった。

【あらすじ】

 羊飼いの青年が迷い込んだ謎の国「エレホン」。人びとはみな優しく、健康的で美しいまさに‟理想郷”のようだった。金髪で健康な身体を持つ青年は、理想郷の人びとに歓迎されるが、そこではおかしな不文律があることに気が付き、次第に疑問を深めることになる。

病める者、不幸な者が処罰される一方で、お金持ちは罪を犯しても心の迷いとして許される、150年前に描かれた奇怪なディストピア小説

わたしの大好きな、芥川龍之介の「河童」もエレホンをオマージュしていると知って、確かにそう思える部分があった。河童もいいですよ…

 

 

👑第1位 『アンデスのリトゥーマ』

アンデスのリトゥーマ

アンデスのリトゥーマ

 

2〜10位は大いに迷ったけど、1位は最初からこの本と決めていた。

【あらすじ】

アンデス山中に駐在する伍長リトゥーマと、愛する女性に逃げられ傷心のトマスは、工事現場のすぐ側で起きた3人の男の謎の失踪事件について調査をすることになった。黙して語らないインディオ、迷信を誠しやかに語り本心を見せない酒場の夫婦、荒々しい革命の嵐。3人の男はどこへ消えたのか、それとも殺されたのか。彼らを搦めとったのは、果たして革命か、それとも悪霊か…。

あらすじを見た瞬間に買おうと思った1冊。バルガス・リョサの名前は聞いたことはあったけど未読だったので、この作品が1冊目。夢と過去と空想と現実が混ざり合う独特の文体に翻弄されるけれど、最後まで読むと全てが繋がり戦慄が走る。

間違いなく、今年読んだなかの一番だった。

※残酷な描写やグロテスクな描写が苦手な人にはちょっとお勧めできない。わたしも苦手だけど、でも面白かった。

 

 

以上、2020年ベスト小説10選でした。

コロナ禍の割にたくさんの本は読めなかったけど、なかなか濃い読書ができたのでこれはこれでよかったかも。

来年は十二国記シリーズの新作短編も出る予定だし楽しみ。

ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。よいお年をお迎えください。

 

 

 

〇追記〇

選外1(ベスト10には入れていないけど強烈な印象により抜擢)

 『隠された悲鳴』

隠された悲鳴

隠された悲鳴

 

 アンデスのリトゥーマを読める人なら大丈夫かな…。

いやでも読んだあと暫く怖かった。

怖い話(グロテスクとかそういう意味で)が苦手な人は、あまり検索もしない方がよい。これが、現実とかけ離れた空想とはいえないということが一番こわい。いやでも読み応えはあった。

 

 

選外2(10位に入れそびれたけど、発売おめでとうございます)

銀河英雄伝説列伝1』

まさかの公式二次創作小説集。

本気の本気で、有名作家たちが書いた銀河英雄伝説のスピンオフ。

流石に本職の小説家たちが書いている外伝、面白かった。1ということは、きっと2もあると期待しても良い・・・???

 

 

選外3(小説ではないので)

『南洋通信』

南洋通信-増補新版 (中公文庫)

南洋通信-増補新版 (中公文庫)

  • 作者:中島 敦
  • 発売日: 2019/07/23
  • メディア: 文庫
 

 中島敦が、南洋庁の役人として働いていた際に、妻子に宛てて書いた書簡を集めたもの。古典のインテリっぽいというか、砕けた印象のない中島敦の私人としての手紙が新鮮だった。

子どもを気にしたり、妻に心配するなとしきりに言ったりする割に、体調を崩すと弱気になり、ビスケットが食べたいとこぼす普通っぽさに共感できるけど、流石小説家だからか、手紙なのに読んでいて物語を感じる。エッセイが好きな人に刺さりそう。