本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【五十音順・おすすめ小説紹介】62冊目 中村文則

 おすすめ本紹介、62回目。

 

もうずっと更新していなかった五十音順小説紹介シリーズ、62冊目。

心機一転、タイトルを変えました。

 

銃 (河出文庫)

銃 (河出文庫)

  • 作者:中村 文則
  • 発売日: 2012/07/05
  • メディア: 文庫
 

 ようやく中村文則さんまで来たかと思うと、この五十音順紹介も折り返しを過ぎたのだと感じます。

この著者の作品で選ぶならどれにするか…と結構悩みましたが、やっぱり掏摸か銃かな、と思い選びました。

 

幼い頃、虐待が原因で施設に預けられ、養父母に引き取られて育った1人の青年が、ある日偶然銃を手にしたことで、静かに歯車が狂い狂気へと踏み出していく。

短い話ですが、背徳感と高揚をじわじわと募らせていく青年の危うい心理描写が印象的です。銃という暴力しか生まない武骨な武器を、うつくしい存在として認識する狂気と、警察に嗅ぎ付けられ怯える小市民的な感情。銃を持たなければ、ただ普通のありふれた人間のひとりであるのに、持ち続けることで徐々に銃に乗っ取られたように道を踏み外していく過程にドキドキしました。

 

銃を所持したことで万能感に浸る青年は、ある夜、死にかけた猫に発砲してしまいます。その後、青年が銃を所持していると疑った刑事には「猫のつぎは、人に使いたくなる」と警告される場面があります。

青年はもう銃を捨てようと思いながら、使いたい気持ちを抑えられず、犯行計画を立てますが・・・。

 

「銃を撃ちたい」という欲を抑えきれず、銃にいいように振り回されるような後半の展開は、読んでいるこちらもハラハラさせます。警察を前にしても落ち着いて話し、冷静に犯行計画を立てる冷徹なキャラクターに見える一方、ごく普通の大学生としての生活を保ち、銃の存在に恐れを抱く。「このままでは撃ってしまう」「本当に計画を実行するのか」とことあるごとに迷う青年は、どうしようもなく普通の人間なのだとわかってしまい、平凡で善良な人間でも、単純な暴力、銃という魅力の前ではあっけなく意思を乗っ取られてしまうのかと背筋が寒くなります。

ネタバレになるので書きませんが、終わり方がとても好きで、ぜひあらすじやネタバレを検索せず、まっさらな状態で読んでほしい本です。

ちなみに、わたしは観ていませんが、映画にもなっているそうです。

 

thegunmovie.official-movie.com