本の虫生活

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【2018年イチオシ本ベスト10】今年読んだ本たち

今年もいよいよ今日で終わりとなりました。

慌ただしくあっという間に過ぎていった1年だったように思います。

 

今年から本格的に記事を書き始めて、誰も読んでくれないんじゃないか、バッシングを受けるのではないかと戦々恐々としていたのですが、そんなことはなく沢山の方が覗きに来てくれたことに感謝致します。遅筆な上に拙い文章ですがこれからも楽しんでくれる方がいれば幸いです。

 

さて、本題に移ります。

今年に読んだ本の総決算をしようと思い、読んだ中から個人的ベスト10を選びました。

 

 

👑1位 薔薇の名前 ウンベルト・エーコ

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉

 

 新しい本ではないですが、ずっと読んでみたかった念願の名著を読み終えた感動はひとしおでした。

今年、NHKの100分de名著という番組で紹介されたお蔭か書店に平積みされており、ようやく手に取りました(実は前に読んだのですが、よくわからなくて挫折していました💧)。中世ヨーロッパの修道院で起こる不可解な連続殺人事件に修道士の師匠と弟子のコンビが挑むミステリ小説で、ヨハネの黙示録を彷彿とさせる奇異な殺人や迷宮のごとき図書館、次々と浮かぶ容疑者に手に汗を握りページが進むエンターテイメント性が見事でした。

内容は中世のキリスト教の宗派間対立、教会と王、庶民の関係性の変化など、歴史に詳しくないと少し読みづらいところもあったのですが、これを読みながら学びたくなりました。当時、一部の階級しか触れることのできなかった『知』への渇望の大きさを知りました。

 

👑2位 犯罪 フェルディナント・フォン・シーラッハ著

犯罪 (創元推理文庫)

犯罪 (創元推理文庫)

 

 小説を通じてドイツ政府まで動かした衝撃作『コリーニ事件』と迷ったのですが、シーラッハという作家を知る切っ掛けとなった大事な一冊なのでこちらにしました。

作品数は少ないですが、この作家の本はすべてお勧めです。今年知ることができて大変ラッキーでした。本書は犯罪を犯した境遇の異なる様々な人達の姿を淡々と描き出しています。戦慄するような猟奇犯もいれば、同情せざるを得ない哀れな犯人も出てきます。序文には、以下のような言葉が記されています。

私の話に出てくるのは、人殺しや麻薬密売人や娼婦です。それぞれにそれぞれがたどってきた物語があります。しかしそれは私たちの物語と大した違いはありません。私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。氷の下は冷たく、ひとたび落ちれば、すぐに死んでしまいます。氷は多くの人を持ちこたえられず、割れてしまいます。私が関心を持っているのはその瞬間です。幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば。

人はなぜ罪を犯すのか。答えのない問いに静かに向き合う気持ちになる作品です。

 

👑3位 星夜航行 飯嶋和一

星夜航行 上巻

星夜航行 上巻

 

 気合を入れないと読めない飯嶋和一氏の最新作です。

今年6月に刊行した直後に買い、全力で読んでも1か月強かかりました。分厚さもさることながら、ほとんど歴史書のような圧倒的情報量に殴られ、本筋を追うだけでもぜいぜい息を切らせながら最後まで読み切りました。飯嶋和一氏の本は独特の達成感があります。

徳川家康の息子、三郎信康に仕えた男の数奇な生涯を描いた本書は、信長の世から、秀吉の晩年までで翻弄された諸侯や民衆の姿を克明に映し出しています。特に、戦国時代うと武田信玄織田信長、それか関ヶ原の合戦などが注目されがちですが、本書は秀吉の世が中心で、鎖国前の交易や朝鮮出兵の話がふんだんに盛り込まれていて面白かったです。

ただ、飯嶋和一氏の本を読んだことがない人の1冊目にはお勧めできません。多分心が折れます。初めての方は『始祖鳥記』『雷電本紀』『黄金旅風』あたりがお勧めです。ぜひお試しください。

 

4位 夜と霧の隅で 北杜夫

夜と霧の隅で (新潮文庫)

夜と霧の隅で (新潮文庫)

 

 北杜夫氏の芥川賞受賞作品と聞いてずっと読んでみたいと思っていたのですが、なかなか本屋にないので読みそびれており、今年偶々立ち寄った書店で見つけました。北杜夫氏の本はどの書店でも少ししか見ないのですが、それでも『どくとるマンボウ』シリーズや『楡家の人びと』などは比較的入手しやすく、他はあまりありません。今年は『夜と霧の隅で』と『幽霊』を新品で見つけられてラッキーでした。

本書は表題作が芥川賞受賞作で、ナチスドイツの精神病院が舞台です。ある有名な作品を彷彿とさせるタイトルですが、扱う題材は似ていても全く違う後味を残す作品です。あの時代の狂気じみた陰惨な現実は、私たちから思考力を奪ってしまいがちです。悲惨すぎて目を瞑り、酷い時代だったから起きたことだと思いたくなります。しかし、本書は本当にそれだけなのかと問いを発しているように感じました。患者を『治そう』として、軍に強制された訳でもなく非道にも見える治療を繰り返す医師の姿は、客観的に見た私たちの姿ではないと言い切れるのでしょうか。そんなことを思いました。

 

5位 ポーツマスの旗 吉村昭

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

 

 日露戦争について調べていた時期に見つけた本です。外交官・小村寿太郎の生涯と日露戦争講和条約、通称ポーツマス条約締結の熾烈な駆け引きを描いた作品です。

吉村昭氏の作品でメジャーな人を題材にしているのが意外でしたが、かなり面白く読めました(吉村氏の作品は未読のものが多いので来年はチャレンジしたいです。余談ですが今年読ん短編集『羆』もお勧めです)。今年は陰鬱な小説やノンフィクションを多く読んでいたので、久々にワクワク手に汗を握りながら楽しめた一冊です。明治時代になり、急ピッチで海外列強に渡り合うために研鑽を積んだ各地の外交官や大使館の名も知られぬ人々の努力がうかがえました。歴史的に海外との交渉などの外交経験が浅い日本と、古くからヨーロッパと渡り合ってきたロシアの外交手腕は天と地との差がありながら、自らの才覚と周囲の助力によって互角以上に戦う小村寿太郎にしびれました。

 

6位 読書について ショーペンハウアー

読書について (光文社古典新訳文庫)

読書について (光文社古典新訳文庫)

 

 毒舌王ショーペンハウアーとこれからは呼びます。ここまで舌鋒鋭い人がいるのかと驚き半分、苦笑半分で読みました。

今年は哲学に挑戦しようと思い光文社古典新訳文庫をいくつか手に取ったのですが、ショーペンハウアーを読むならこの出版社がお勧めです。他の訳より切れ味が鋭いので。いまネットで本書のような発言をしようものなら一瞬で炎上だというようなかなり過激ともとれる発言が多いです。しかし、その鋭さに惑わされないよう慎重に読んでみると著者の主張が少しずつ見えてきます。例えば、読書とは他人の頭で考えることだという主張は、恐らく読書自体が悪いのではなく原典も確かめずに他者の書いたものを鵜呑みにしたり、自分の意見を持たず他者の言葉ばかり借りることへの警告だと思います。悪書が良書を駆逐することへの警戒や、物書きへの苦言も呈していました。耳に痛い言葉も多いですが、じっくり自分の頭で考えることの重要性を思い出すきっかけになった本でした。

 

7位 王とサーカス 米澤穂信

王とサーカス (創元推理文庫)

王とサーカス (創元推理文庫)

 

 純粋に小説として楽しめた本です。著者の作品はデビュー作からほぼ全て読んでいますが、そのなかでもベスト5に入る作品です。

さよなら妖精』で初登場した太刀洗が主人公のシリーズで、チベットの王宮で起きた王族殺人事件をきっかけに、様々な謎が現れてくるミステリです。名前は聞くけれどあまり馴染みのないチベットという環境に惑わされ、謎が謎を呼んでいく展開に翻弄されます。正直なところ、著者の作品やミステリという分野を読み過ぎてトリックや伏線をほとんど予測できてしまったのですが、本書はそれなしでも驚きの結末が用意されていてとても印象的でした。

ミステリは社会の病理や価値観のぶつかり合いを抉り出す作品が多いです。宮部みゆき氏などは社会の問題を暴き出す作品を多く書いていて、日本人にとってはこういう作品は珍しくないと思います。しかし、本書は『書くこと』へのジレンマを小説のなかで提示してみせた問題作です。書く人、読む人すべてに訴えかける強いメッセージが心に残りました。

 

8位 チャパーエフと空虚 ヴィクトル・ペレーヴィン

チャパーエフと空虚

チャパーエフと空虚

 

 今年イチ理解不能な作品です。でも新しい扉を開いてくれたという点で、ベスト10に選びました。

著者はロシアの現代作家で、ロシアで最も権威ある文学賞ロシア・ブッカー賞を受賞した人だそうです。あらすじを説明しても意味がない、という訳の分からない小説です。秘密警察が跋扈する時代のロシアで、精神病院に収容された主人公が現実と夢を行き来するというような内容ですが、どちらが現実でどちらが夢なのか、読んでいるうちにわからなくなる不気味さがあります。所詮この世は胡蝶の夢であり、夢と現実に差はない。現実味の無い荒唐無稽な夢のなかで、世界の実在、自己意識の実在、美と幸福、時間の永遠性についての問答が繰り返され、物語は意外な結末へと収束(あるいは発散)していきます。哲学が好きな方は結構面白く読めるかと思います。来年にこの本について記事にまとめてみる予定です。

 

9位 告知 久坂部羊

告知 (幻冬舎文庫)

告知 (幻冬舎文庫)

 

 久坂部羊の本は癖が強いですが、本書もとても衝撃的です。

現代医療や介護の問題を容赦なく抉り出す本書は、著者の作品のなかでもパンチの効いたものでした。

短編集ですが、一話一話読むだけで心理的ダメージを被るので、少しずつ読むのをお勧めします。著者の作品に慣れている方はいいですが、そうでない方にはおすすめしてよいか迷います。本書の凄いところは、『事実だからこそきつい』という点です。誰もが直面する恐れのある病気や介護について、美談ではない露骨なばかりの現実を描けるのはすごいと思います。しかし、読んだらショックを受けると思います。綺麗なものではないとうすうすわかっていても、実際に知ってみるとあまりの凄絶さに絶句しました。しかも、それを仕事にしている人が居て、自分の親族もお世話になったことがあるという衝撃。知ると後悔するけれど、知っておく必要があると思いました。

 

10位 謝るなら、いつでもおいで  川名壮志著

謝るなら、いつでもおいで: 佐世保小六女児同級生殺害事件 (新潮文庫)

謝るなら、いつでもおいで: 佐世保小六女児同級生殺害事件 (新潮文庫)

 

 最後はドキュメンタリーから一冊です。今から10年以上前、ある小学校で女子児童が同級生を殺害するという事件がありました。本書はその事件当時からずっと取材を続けてきたライターの手記のような本です。

私はこの事件があったとき、あまり歳の変わらない子どもが同級生を殺害したという事件をニュースで知り、とても衝撃を受けました。この事件によって少年法の年齢について法改正があったほど社会に影響を与えた事件でした。しかし、今年この本を本屋で見かけるまで、私は事件についてすっかり忘れていました。

なぜ事件が起こってしまったのか。真相というものは誰にもわからないけれど二度と繰り返してはならないのだ、という著者の想いが伝わってきました。被害者の身近に居た著者が、近しい人物を取材して仕事をすることへ苦悩し、報道することの意味に悩み続ける告白は、『王とサーカス』の太刀洗の苦悩と重なりました。書くことで人を傷つけるかもしれないなら、書いていいのだろうか。問い続けるのは苦しいけれど、問い続けることこそ書く者の義務かもしれません。そして読む側・観る側は娯楽のように楽しむのではなく、自分のこととして事件を記憶し、考えて生きていくことが大切なのかと思いました。加害者を一方的に中傷したり、被害者をただ悲劇に仕立て上げることなく公正に観ようとする著者の姿勢に共感できる本です。おすすめしにくい内容ですが、臭いものに蓋をするだけではなく、向き合うことの大切さを感じた本なので選びました。

 

 

以上、今年のイチオシ本10選でした。

今年は難航している記事もいくつかありブログ運営は苦戦もしましたが、読書会に参加するなど新たな刺激もあり、たくさんの本と出会えたいい年でした。選外になりましたが、おすすめの本も以下に載せておきます。

 

末筆となりましたが、皆様良いお年をお迎えください。

 

 

※ベスト10選外 お勧め本

夢みる葦笛 (光文社文庫)

夢みる葦笛 (光文社文庫)

 

 今年読んだ本ではないので選びませんでした。ようやく文庫化して読みやすくなったので、帰省のお伴にでも。

 

人の心は読めるか?──本音と誤解の心理学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人の心は読めるか?──本音と誤解の心理学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 ハヤカワノンフィクションの中で、今年一番面白かった本です。数学や物理の話よりとっつきやすくておすすめです。

 

異界と日本人 (角川ソフィア文庫)
 

 京極好きを拗らせて読みました。民俗学初心者でも読みやすい本です。

 

真説 毛沢東 上 誰も知らなかった実像 (講談社+α文庫)

真説 毛沢東 上 誰も知らなかった実像 (講談社+α文庫)

 

 中国の独裁者、毛沢東の壮絶な話です。ここに書かれていることが全て真実かはわかりませんが、一部でもすさまじいです。