本の虫生活

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【問題編】夏は読書の季節?

読書の秋という言葉をよく聞くけれど、わたしにとっては夏の方が読書界隈の盛り上がらいを感じます。

 

夏休みの読書感想文に合わせた新潮文庫の100冊、集英社のナツイチ、角川のカドフェス(フェア名はこれで合っていただろうか。ちょっとうろ覚え)があって、書店に活気を感じるのは、やはり秋より夏です。

秋は涼しくなってちょうどいいかなあと思いますが、何故か毎年記憶がないほどあっという間に過ぎて気が付いたら年末なので、今年はちょっと意識して『読書の夏』を過ごしました。いつもはさっと読み流してしまう本から気になるフレーズをいくつか選んだので、ご紹介します。

 

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今年の夏に新たに読んだ本、そして読み返した本のなかから、上記の写真10冊を選びました。

フレーズだけ抜き出して掲載するので、わかった人がいたらコメントやTwitterの方にでも書いていただいてもOKです。答えは【答え合わせ】記事に載せようと思います。

では、紹介していきます。

 

①ヒント:海外小説、読書感想文向けにもよく選ばれる?

自然に造られたままの人間は、計ることのできない、見通しのきかない、不穏なあるものである。それは、未知の山から流れ落ちてくる奔流であり、道も秩序もない原始林である。原始林が切り透かされ、整理され、力でもってされねばならないように、学校も生まれたままの人間を打ち砕き打ち負かし、力でもって制御しなければならない。

 海外小説で書名を知らない人はいないくらいの有名な作品ですが、ドキリとするような厳しい表現と柔らかい心情描写の緩急の付け方が上手くて、正直して想定よりも面白かったです。

 

②ヒント:海外小説、タイトルがおしゃれ

 「奥さまは、すべて水に流して一からやりなおしたいとお考えです。あなたをとがめだてするつもりはまったくないとおっしゃっていました」

「くだらん」

「ろくでなしの人非人と思われてもいいんですね?奥さまとお子さんが物乞いをするはめになってもいいんですね?」

「知ったことか」

わたしは次にいう言葉に重みを持たせようと、少し黙った。そして、一語一語ゆっくりいった。

「あなたは、最低の男だ」

 こちらも有名な作品ですが、何となく難しいとか読みにくいというイメージを勝手に持っていて未読の作品でした。今年読んでみて、あっという間に引き込まれて好きになった本です。コンラッドの闇の奥とか、人間の精神の奥底を覗くような、そういう作品に魅かれます。

 

③ヒント:海外小説、SF

未来世界を覆った気の滅入る荒廃を、いったい、どう話したものだろうかねえ。真っ赤に燃える東の空。北の暗黒。塩分の濃い海は死海と同じで、生き物は棲めない。石混じりの浜に、鈍重なカニの化け物が醜い姿をさらして這いずりまわっているばかりだ。緑の植物はどれもこれも、毒がありそうな地衣類、もしくは藻類でしかない。空気は薄くて息が苦しい。そんなこんなで、世界は見るも無惨だよ。

 SF小説のなかでも一番好きかもしれない1冊。未来世界と書いてしまっているので、これはわかりやすいでしょうか?

 

④ヒント:海外小説、冒険

「<獣>を殺せ!喉を切れ!血を流せ!」

動きが規則的になるにつれ、歌ははじめの浅薄な興奮を失い、着実な 脈拍のようにリズムを刻みはじめた。

(中略)

いくつかの輪が、回りつづけることで安全が確保できるとでもいうように、ぐるぐる回りつづけた。そこではひとつの生命体が動悸を打ち、足を踏み鳴らしていた。

これは読んだことがある人には1発でわかってしまうと思います。

スリリングで記憶に残るフレーズですね。

 

⑤海外小説、著名作家の隠れた名作

トカゲが穴から顔を出し‥‥‥

真相が‥‥‥

真相が少しずつ、トカゲのようにひょこひょこと現れる。「わたしはここにいる。おまえは知っているはずだ。わたしをよく知っているはずだ。知らないふりをしても、何にもならないんだからね」

真相を知っているーだから恐ろしいのだ。

(中略)

愛している人たちのことなら、当然知っているはずなのに。

わたしがこれまで誰についても真相を知らずにすごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだ。 

 著名作家の作品のなかでも、タイトルに聞き覚えがなくて、なんとなく読んでみた作品です。今年メディアで何かと話題になったようで、再評価されているようです。

 

ここまでが海外小説編です。続いて日本の小説編です。

 

⑥日本の小説、皮肉な語り口が癖になる

富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらい、けれども、陸軍の実測図によって東西及び南北に断面図を作ってみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。広重、文晁に限らず、たいていの絵の富士は、鋭角である。いただきが、細く、高く、華奢である。北斎にいたっては、その頂角、ほとんど三十度くらい、エッフェル鉄塔のような富士さえ描いている。けれども、実際の富士は、鈍角も鈍角、のろくさと広がり、東西、百二十四度、南北は百十七度、決して、秀抜の、すらと高い山ではない。

 ほとんどネタバレしていますが、この作品が好きなので載せました。

はじめて読んだときは「こんな話だったのか!」と結構びっくりしました。

 

⑦日本の小説、文豪の、教科書には載らない方の作品

「この国の死刑は日本よりも文明的に出来ているでしょうね?」

「それは勿論文明的です」

ペップはやはり落ち着いていました。

「この国では絞罪などは用いません。稀には電気を用いることもあります。しかし大抵は電気も用いません。唯その犯罪の名を言って聞かせるだけです」 

 これだけでもピンとくる人はいそうですが、もう一箇所載せたい場面があるのでそれも書きます。

「君はあしたは家にいるかね?」

「Qua」

「何だって?」

「いや、いると云うことだよ」

大体こう云う調子だったものです。 

 この調子はずれのやり取りが好きで…。⑦がすぐわかった人は握手しましょう、Qua!

 

⑧日本の小説、昭和の大事件を題材とした名作

テントをうつ雨の音を聞き、ちろちろと外で燃える焚火を見るにつけ、恩地に、テヘラン空港で妻子と別れた時の体が引き裂かれるような苦痛が甦って来た。テントをうつ雨の音さえ、あの時の激しい飛沫に思えた。

あの日から、独り東アフリカのケニアに赴任し、既に二年半も経っている歳月を思うと、自分は、まさに現代の組織における"流刑の徒"以外の何ものでもないー。 

 有名だけど読んだことがない、という人も多そうな作品。初めて読んだとき、有名なくだりが出て来るまでは全く違う話が続くので、ちょっと面くらいました。このフレーズでピンとくる人はなかなか通ですね…。

 

⑨日本の小説、有名作家の作品のなかでもコアな方?

片桐がアパートの部屋に戻ると、巨大な蛙が待っていた。二本の後ろ脚で立ち上がった背丈は2メートル以上ある。体格もいい。身長1m60センチ しかないやせっぽちの片桐は、その堂々とした外観に圧倒されてしまった。

「ぼくのことはかえるくんと呼んで下さい」と蛙はよく通る声で言った。

 特徴的な名詞がでているので、わかる人にはすぐわかってしまいます。

この著者の作品をたくさん読むほうではないのですが、上記の短編は好きです。

 

⑩日本の小説、わたしのイチオシ

意欲がわかなかったが、とにかく浅香一郎は最初の問題に目を通した。

 

●次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

積極的な停滞というものがあるなら、消極的な破壊というものもあるだろうと人は言うかもしれない。なるほどそれはアイロニーである。濃密な気配にかかわる信念の自浄というものが、時として透明な悪意を持つとこがあるということは万人の知るところであろう。 

 ヒントがヒントになっていません。これがわかる人はわたしと握手(以下略)。多作の作家なのでどの本を選ぶか迷いますが、わたしは上記の作品が載った短編集が一番好きです。肩ひじはらずにただ笑える1冊です。

 

 

以上、10冊のクイズでした。

海外小説と日本の小説を5冊ずつ、すべて一度は名前を聞いたことがある作家または作品を選んだつもりです。

結構楽しかったので、またこういう記事を書こうかな、と思います。

答えは次の記事に書くので、よかったら確認してみてください。