本の虫生活

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若様組がいとおしい

畠中恵の明治西洋菓子シリーズ「アイスクリン強し」の前日譚、「若様組まいる」を読了しました。

若様組まいる (講談社文庫)

若様組まいる (講談社文庫)

 

 ずいぶん前にシリーズ前作「アイスクリン強し」を読んでいましたが、その後続編が出ているとは知らず、最近になって3作目が出たことでこの作品を知りました。

 

前作で活躍した西洋菓子職人、ミナの幼馴染たちが今回は主人公です。明治の開化の世が舞台ですが、その恩恵を全く受けられなかった元旗本の「若様」たちは、皆世が世なら何百石の領地を統べる殿様となるはずの若者ばかり。しかし、明治維新によって徳川幕府は解体され、元旗本達は‟賊軍”として今までの土地や暮らしを全て奪われることになります。若様とは名ばかりで貧乏な上、元家臣たちの面倒を見るため毎日のご飯の心配をしなければならない有様です。そんな若様達が将来のために悪戦苦闘しながら前に進む、甘くてほろ苦い青春群像劇です。

 

わたしは、‟明治”という時代の分岐がどうにも気になり、明治ものなら小説からノンフィクション、漫画まで何でも手を出してしまいます。

何故この時代がそこまで気になるのか。それは、価値観の大転換があったからだと思います。ついこの間まで白だと思っていたことが突然黒に変わる。生活が、階級が、価値観が、隣人が猛スピードで変化していく。この流れで、富を得たりチャンスを掴んだ人がいる一方、取り残された人や消えていった物事はどれだけあるだろう。そう、想いを馳せずにはいられません。

 

本書で活躍する「若様」達は、取り残された典型の元武士の子孫。この若様たちが、巡査になることを目指して警察予備学校を受験するところから、物語はスタートします。

 

薩摩の勢いの強い警察組織で、若様たちは嫌がらせを受けたり、同期と衝突したりしながら何とか日常に慣れていきます。いがみ合っていた同期達が、次第に心を許せる仲間になっていく展開は、爽やかな青春を感じるストーリーです。

しかし、やっぱりそこで甘いだけではいかないのがこのシリーズ。甘いお菓子をテーマにして苦い現実を描写した前作と同様、そしてそれ以上に、若様達の直面する現実は苦く遣る瀬無いものがあります。

本作の主人公格、長瀬の心理描写にはちょっと切なくなりました。上手く行くことばかりではないし、選びたくても選べないものがある。でもそれを嘆くのではなく、現実を生きるために別の道へと踏み出して行く若様たちは、とてもカッコいいです。

 

このシリーズは最新作、「若様とマロン」が最近文庫化しており、読むなら今がおすすめです。

本屋さんを巡っても出会えないときが割と多かったので、シリーズが出ている今がチャンスです。本作「若様組まいる」だけでも単品で読めますので、ご興味のある方はぜひ今がおすすめです。