本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

読書会で紹介した本

最近、久しぶりに立て続けで読書会に参加をしてきました。

その読書会で紹介させていただいた本を、折角なので記事でも紹介してみます。

 

1冊目がこちら。

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)

 

 15世紀のイギリス、シェイクスピアの戯曲にもなった残虐非道として知られるリチャード三世をめぐる歴史ミステリです。

<あらすじ>

小説の舞台は現代のイギリス。捜査中の事故によるけがで入院生活を送るグラント刑事は、退屈を持て余していた。小説にもチェスにも興味のないグラント刑事は、何もすることのない病院に飽き飽きし、知人の持ってきた肖像画のひとつに偶々目を留めた。その肖像画から、几帳面でまじめすぎるほどまじめな人物を想像するが、実はその人物はかの有名な暴君、リチャード三世であった…。

刑事としての自分の鑑定が大きく外れたことにショックを受けたグラント刑事は、入院中の暇つぶしも兼ねてリチャード三世にまつわる真相を探るため、歴史書や小説をあたり、彼の素顔へと迫っていく。そして導き出される結論とは。安楽椅子探偵ならぬ寝台探偵として、当たり前と思われている歴史の真相を解き明かそうとする本作は、ミステリとしても歴史ものとして十分読み応えがあります。500年近く昔の話を、刑事事件の捜査のように解き明かしていく手法が面白かったです。この本はヨコハマ読書会さんと小説が好き!の会さんの両方で紹介させていただきました。

 

 

そして2冊目がこちら。

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 最近読んだなかで一番のお気に入りです。

クリスティの作品のなかではとても異色な、自伝的小説ともいわれるミステリです(※ポワロもミス・マープルも登場しません)。手に取ったきっかけは、最近クリスティが気になり始めていることと、タイトルが素敵なことでした。何一つ事件は起きていないのに、鮮やかにすべてがひっくり返るどんでん返しを味わえるミステリです。

<あらすじ>

 弁護士として成功した夫、成人した三人の子どもを持ち、裕福で満ち足りた暮らしをするジョーン・スカダモアは、次女の急病の知らせを受けて訪れたバグダッドからの帰路で大雨に遭ってしまう。汽車で帰ろうとしていた彼女は、思わぬ天災に足止めをされ、何もない砂漠のレストハウスでひとり暇を持て余していた。手持ちの本も読んでしまい、手紙を書くことにも飽きてしまった彼女は、ふと思いついて自分の人生を振り返りはじめるが…。

ちょっとしたアクシデントが切っ掛けで、数日間物思いに耽ることになったジョーンが、内省を繰り返して自らの人生の『真実』に気が付きはじめる過程がみごとに描写されています。内心の変化、心の在り方ひとつで人生が180度別のものに見えてくる、そんな恐ろしさとすこしの物悲しさ、そしてドラマチックさが味わえる『事件のないミステリ』です。自分の人生に当てはめてみたら…と考えるとちょっと背筋が寒くなります。怖いもの見たさ、というような、ドキドキする作品でした。

 

 

この2冊を選んだのは偶然だったのですが、どちらも『ちょっとした暇』を持て余したことから始まるミステリです。何も予定のない休日や、ちょっと長めの休みのときにじっくり読むのもいいかもしれません。