【五十音順・おすすめ小説紹介】48冊目 瀬尾まいこ
おすすめ本紹介、48回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は瀬尾まいこ氏。
柔らかな文体なのに、胸が軋むような切なさと痛みを感じる作品でした。
瀬尾まいこ氏の小説は優しくて痛い物語が多いですが、わたしはこの小説が一番好きです。
この小説を読み始めて最初に思ったのが「全然幸せな状況じゃない」ということでした。
家族の一人ひとりが誰とも共有できない苦しみを抱えていて、でもそれを直視しないように、表面上『穏やか』に生活を続けている。そんな家族が他人と関わりながら少しずつ変わり、どうにか寄り添って前に進んでいく。御伽噺のようなハッピーエンドはないけどゆっくり希望を見出していくような優しいお話でした。
物語の最初は明らかに軋みだらけで、薄氷を踏むような危うい均衡に読みながらハラハラしました。自殺未遂をした後、ある日突然「父さんをやめる」と言い出した父、家族を愛しながら別居を選んだ母、恋人とちっとも上手くいかない兄、そして家族のなかで揺れる妹、…。どんなに辛くても朝は来てしまう、ご飯が喉を通らない、周りは励ましたくてもどうにもしてあげることができない。そんな状況を変えてくれるのは、下手くそな手作りシュークリームだったり、家族で囲むご飯だったりします。
タイトルにあるように、幸せいっぱいの食卓はこの小説に出てきません。
でも、『幸福』とは何だろうかと考えさせてくれるとても優しい物語でした。