【五十音順・おすすめ小説紹介】43冊目 篠田節子
おすすめ本紹介、43回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は篠田節子氏から2冊。
篠田氏の作品は好きなものが多いですが、長編ならばこれを是非おすすめします。
惑星探査用の高純度人口水晶をつくるための原石を探しに、中小企業の社長がインドで様々な事件に巻き込まれるハラハラドキドキの硬派エンタメ小説です。インドという響きだけでも未知の異国情緒を感じさせますが、本書は日本の常識など通用しない異国の厳しさと怖さ、そして驚きの数々が精緻に描かれています。ドキュメンタリーのように細部まで描かれる臨場感と、小説ならではの妖しさが混然一体となり、次々と展開する事態にぐいぐい読ませられてしまいます。誰も信用できない異国で一人悪戦苦闘する社長の藤岡が、ホテルで偶然出会った少女ロサの類まれな能力に助けられながらも、得体の知れない能力に違和感を覚えていく様子にぞっとしました。綺麗に整えられた都市では体験できないような暴力的にも感じる土地信仰や因習は、善悪は別として惹かれるものがありました。
貧困や因習、諸外国の思惑、慈善団体と利潤追求の資本、都市と山村の格差など、インドという巨大な国を舞台に現代社会の問題を真っ向から取り上げているのも読みごたえがあります。どうにもならない現実の恐ろしさ、綺麗ごとで済まない問題の数々は、物語を読み終わっても澱のように心に残ります。
短編集で心に残ったのはこの作品です。
日常と地続きのSF、もしかしたら起こるかもしれないヒヤッとする短編集でした。ミステリでいうと、『日常の謎』ミステリというジャンルが市民権を得ましたが、SFでそういう作品はあまりジャンルとして確立していないようです。本書はまさに日常系SF(というジャンルがあれば)として読めると思います。
ちょっと不思議な設定なのに描かれている内容が人間臭く、欲望や驕りという人間の業を感じさせる薄暗い描写が多いのが印象的です。篠田氏らしいといえばそうですが。
星新一のような皮肉を効かせていながら、もっと湿度の高く仄暗い文章のSFというのがおもしろい取り合わせだと思いました。