zarameのブログ

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【おすすめ本2018】38冊目 桜木紫乃

 おすすめ本紹介、38回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は桜木紫乃氏。

ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)

 

 北国のあるラブホテルで交錯するいくつもの人生を描いた連作短編集です。

話の舞台は既に廃墟となったラブホテル。次の話へ進むごとに時間が遡り、第七話ではホテル建設時まで時が戻っていく趣向で、訪れる人達の視点から廃墟となった建物の歴史をたどっていく構成となっています。

 直木賞受賞作と聞いていたので、恋愛小説かと思って読んだらいい意味で肩透かしを食らいました。

 

 第一話は夢破れたアイスホッケー選手と中学時代の同級生の物語。ケガで不本意に引退した男は、彼女に廃墟でのヌード撮影を依頼し、それを雑誌に投稿することに光明を見出そうとする。

第二話はお寺の住職の若妻が主人公。檀家離れに苦慮するなか、彼女にある支援の話が持ち上がるが…。

第三話はラブホテル廃業の前日譚。父の商売を継ぎホテルの管理をしていた女性は、廃業前に出入りのアダルトグッズメーカーの男と会い、ある提案を持ち掛ける。

 第四話はとある夫婦の日常から。手狭なアパートで舅と同居する夫婦は、寝室も奪われ余裕のない暮らしをしていた。ある日、偶然浮いたお金を手にし、妻は夫にラブホテルへ行くことを提案する。

 第五話は高校の教師と家出した教え子の高校生。妻の長年の不逞を知った教師と都会へ出てキャバクラで働こうとする女子高生の二人は、ラブホテルの扉をくぐるが…。

第六話はラブホテルの掃除婦とその家族の物語。子どもたちは皆家を出て働いており、足を痛め、働きに出ない夫と二人で暮らす日々。普段通りにホテルで働き、帰ってきた妻を夫は五右衛門風呂を沸かして待っていた。

第七話はラブホテル建設秘話。ラブホテル建設の夢に取りつかれた主人公は、妻や義父に猛反対されながらも、建設を諦めようとはしなかった。そんなとき、不倫相手の女性から『子どもができた』と告げられる。

 

どのお話もえぐいぐらいの現実味を伴っていて、綺麗な恋愛小説、純愛小説ではありません。

夢を失った諦念と未練、貧乏ゆえの不条理、停滞した暮らしへの鬱屈、不倫・裏切りへの失望。物語のように上手くいかない、閉塞感にあふれた日常とラブホテルを舞台に交わされる非日常の対比が心に残ります。

 日常と地続きの非日常を過ごしても、何かが変わるわけではない。劇的な変化は起こらないし、どうしようもない現実からは逃れられないけれど、一瞬の場面がきらりと光ることがある。そういう印象を受けました。

モノトーンの日常に、1コマだけ差し込まれた彩色の世界を垣間見るような小説でした。