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【ゴールデンカムイから考える】②北海道開拓

連載2回目は、北海道開拓について。

ゴールデンカムイ本編の時代、北海道は歴史的にどんな状況だったのか。そういう視点で作品について見ていきたいと思います。

 しつこいようですがあくまで個人の見解なので、学術的な正確性や普遍性などは保障出来かねますのでご注意ください。本誌最新話までの情報を含みます。

 

②北海道開拓(キーパーソン:アイヌ

 

目次

(ⅰ)蝦夷共和国土方歳三

(ⅱ)ウイルクの思惑

(ⅲ)アシㇼパ

 

まず、(ⅰ)から検証していきます。

(ⅰ)蝦夷共和国土方歳三

 『蝦夷共和国』とは1869年、明治新政府と対立する旧幕府連合軍を率いた榎本武揚が、蝦夷(現在の北海道)に渡りこの地を支配していた松前藩を打ち破って樹立した国家です。榎本らは箱館蝦夷地領有を宣言し、一部の諸外国には『独立国』として認められました。日本で初めて(諸説ありますが)入れ札で総裁と閣僚を選出したことも有名です。

ゴールデンカムイ本編の、8巻の尾形と土方勢の会話で『蝦夷共和国』の名前が話題にのぼっています。

変人とジジイとチンピラ集めて 蝦夷共和国の夢をもう一度か?

一発は不意打ちでぶん殴れるかもしれんが政府相手に戦い続けられる見通しはあるのかい?

(8巻第70話 尾形の台詞)

この70話自体も疑問点がたくさんあって面白いのですが、書ききれないので割愛します。ここで注目したいのは、『蝦夷共和国』という言っているのは尾形だということ。土方や永倉は肯定も否定もしていません。土方勢の目的ははっきりしているようで実はそうでもないです。土方は自身の目的についてぼかすような台詞が多く、『蝦夷共和国』の再建というのも尾形が言っているだけなので信憑性に欠けます。

そこで“土方は『蝦夷共和国』再建を目指しているのか”というのを(ⅰ)で検証していきたいと思います。

 

(1)土方の目的は何か

結論から入ると、土方が『国家をつくる』ため金塊争奪戦に参戦しているのは確かだと思います。しかし、『どんな国家を目指しているのか』は現時点で推測が難しいと考えています。

「あと100年は生きるつもりだ」という土方の発言と、新聞屋を抱き込むなどの周到な準備の様子から、土方たちは息の長い計画を立てていると推測できます。

ところが、現時点では『どんな思想の元に国家をつくろうとしているか』は全く不明です。アシㇼパを筆頭としてアイヌの独立の機運を盛り上げ、明治政府の支配から脱するという構想が14巻の杉元の台詞から示唆されていますが、本人の口からは語られていません。それに、鶴見中尉の掲げる国家の構想と比べると具体性もないのが気になります。本当は『誰のため』『何をするため』に国家をつくろうとしているのでしょうか。

また、『アイヌへの肩入れ』も謎です。土方とアイヌをつなぐ線は、今のところウイルクくらいしかいません。網走でウイルクとすっかり意気投合し、アイヌの為に力を貸したいと心から思ったというのは何だか据わりが悪い話です(土方とウイルクが信頼し合っていたとは思えないので)。

一つ考えてみたのは、“開拓のため入植した旧幕志士の不遇を救うため”という可能性です。北海道は明治政府によって開拓が進められましたが、初期の開拓を担ったのは旧幕府軍の志士たちだったと言われています。『賊軍』『朝敵』の汚名を着せられ、禄を失い廃藩で行き場をなくした武士たちは、名誉回復と家名再興の悲願を達成するため多く入植したそうです。つまり、北海道には全国各地の旧幕の士族が多く住んでいたはずです。土方はかつての仲間の多く住む北海道で新たな国家を樹立し、不遇に耐える仲間を救おうと考えている、なんてことも考えられないでしょうか(この説だと、戦死した仲間と家族を救うため軍事政権をつくるという鶴見中尉の思想と似ている気がします。わたしは土方歳三と鶴見中尉って結構似ているところがあるように思うのですが、皆さんどうでしょう…)。

(2)ウイルクとの共謀

土方はウイルクについて、70話で牛山が言っているように『信用してない』スタンスと考えるのが現時点では妥当だと思います。何度か別の記事でも書きましたが、ウイルクと土方が完全に結託していたなら金塊のヒントくらい与えても良いだろうし『小蝶辺明日子』という和名でなくアシㇼパという名前を伝えたのではと思います。

ただし、アイヌを『利用する』だけなのかというのは微妙なところです。茨戸編で見せた「喧嘩のやり方が気に入らない」という台詞。卑怯な手段を嫌う性格が強調されています。また、牛山など共闘できる相手は仲間に引き入れる懐の深さもあります。アイヌに対してただ利用して捨てる、という考えは持っていないように思います(希望的観測ですが)。新政府に蹂躙される境遇にかつての自分たちを重ねていて、味方をしようという気があるのでしょうか。それとも、新国家を樹立するには、古来から土地に住む彼らの協力が欲しいという理由なのでしょうか。今のところ判断材料が乏しく、結論が出るのは先になりそうです。

 


(ⅱ)ウイルクの思惑

 土方との共謀について書いたので、ついでにウイルクの謎について2点検証してみようと思います。

(1)何故『昔の仲間』を捨てアイヌについたのか

 ウイルク最大の謎として気になったのがこの問題。ウイルクは当初からアイヌの味方だったのではありません。本誌163・164話でキロランケとウイルクは共にロシア皇帝暗殺の実行犯であることが判明しました。帝政ロシアから独立をかけて戦う過激派組織の一員で、皇帝暗殺という第一級の戦功をあげた人物が仲間を裏切りアイヌにつくというのは、劇的な転向であると思います。

 本編の描写を見る限りでは、幼いアシㇼパに戦士として生きる術を教えてアイヌ独立戦争に巻き込む気が満々だし、アイヌの文化を受け入れ大切に思っていたことをインカラマッとアシㇼパが間接的に示唆しています。いつから彼はアイヌに与していたのでしょうか。

切っ掛けとして自然なのは、インカラマッとの出会いです。彼女の述懐の通り、帝政ロシアとの戦いで傷ついたウイルクは、インカラマッに導かれ北海道の自然とアイヌを愛するようになったから味方になったのではないでしょうか(ちょうどアシㇼパと出会い癒された杉元のように)。

ウイルク達が北海道に来た頃は、ゴールドラッシュの話が盛り上がっていた時期です。早い段階から彼らは金を軍資金として得られないか考えていたと思います。ツイッターで少し書きましたが、ウイルクとアシㇼパ母との結婚は謀略の可能性があると考えています。北海道に潜伏中にアイヌの金塊の噂を聞き、アシㇼパ母の居るコタンが出どころに近いと知ったウイルク達は、金塊の情報を得るためにコタンの権力者(フチ)の娘との結婚を目論んだ可能性はあると思います。インカラマッとの出会いだけがイレギュラーで、図らずも北海道の自然とアイヌの暮らしの美しさを彼女に教えられ、ウイルクは変わったのだと思います。それでもインカラマッと別れアシㇼパ母と結婚したのは、金塊をアイヌのために使う決心をしたから。自分が手を引けばキロランケ達が金塊を持ち出してしまう。それを阻むためだったと考えると説明はつきそうです。

普通にアシㇼパ母を愛したから結婚したという可能性もあるのですが、ウイルクはインカラマッのことを隠して『アイヌのことはアシㇼパ母にすべて教わった』と偽ったり、妻を『ピリカメノコ(美人)』としか評していないのが怪しいと感じてしまいます。少なくとも、インカラマッのことで嘘つく必要はないと思います。実はウイルクが愛していたのはインカラマッで、アシㇼパ母は利用するため結婚したと考えるなら、娘に嘘を吐きたくなるのはわかりますが(でもこれじゃ、ウイルクがかなりの下種…)。

(2)アシㇼパを旗手に仕立てたのは何故か

これも結構不思議です。ウイルクが陣頭に立ってもよいのに、わざわざ娘を『アイヌを導く存在』として育てた理由。繰り返しウイルクが言っている『未来を託すため』という言葉も謎めいています。

14巻で鯉登少将が言っていたように、『多くのアイヌの子を巻き込むから、自分の子をまず捧げた』というのが正しいのでしょうか。それだけではなくて、ウイルクが陣頭に立てなかった理由もあると思います。

本誌163・164話で明らかになったように、ウイルクはロシアから指名手配されています。正体を偽ったままアイヌに混ざったウイルクは、新聞に写真が載れば指名手配犯であることがバレる危険性があります。ウイルクがアイヌ側に居ると知られたら、アイヌがロシアの標的になるかもしれません。また、ウイルク自身は結婚して北海道アイヌになった新参者であり、独立運動の旗印となるには影響力が弱いとも考えられます。こういった止むにやまれぬ事情から、娘のアシㇼパを先頭に立たせようとしたのかもしれません。

また、もう一つ気になるのが『未来を託すため』という言葉。まるで未来に自分が居ることを想定していないような言葉です。身分を偽っていても、独立運動が大きくなれば自分の正体は露見するかもしれない。ウイルクはロシアの指名手配犯である自分の運命にアイヌを巻き込まないよう、消えるつもりだったのでは。だからアシㇼパに『未来』を託した。愛するアイヌを守るため、自分は舞台から降りようとしていたのかもしれません。

 

 

 (ⅲ)アシㇼパ

 ようやくアシㇼパさん論です。半分以上土方さんとウイルクの話をしてしまいました。

 アシㇼパの置かれた状況について考えてみると、逆説的な要素が浮かび上がってきます。

“誰よりも自己決定を重んずるのに、誰よりも他人に振り回される”

“人に救いを与えるのに、自分は裏切られる”

 アシㇼパを取り囲む状況は、こんな風に見えます。

ウイルクにより、知らない内にアイヌのため戦えるように育てられ、慕っていたキロランケに父を殺され、尾形に杉元を殺され(生きてるけど)る。土方や鶴見中尉にも身柄を狙われる。

愛したアチャとレタㇻには置いていかれ、旅の当初では杉元にも黙って去られてしまう。これほど他人に振り回されているキャラクターも少ないのに、アシㇼパの溌剌とした行動力で悲劇的に感じないのがすごい。

特に皮肉なのは、アイヌ解放や独立をうたう者達(ウイルク、キロランケや土方)によって、アシㇼパは自由を奪われるという構図。大人の都合に振り回されるアシㇼパは、さながら明治政府によって不当に弾圧されるアイヌ民族のようです。

しかし、ゴールデンカムイ本編では希望も描かれています。

10巻に収録されている偽アイヌコタン終幕での台詞には、確かに未来への希望が感じられます。

弱くなんかない

アイヌの女だってしたたかなんだ

このコタンは必ず生き返る

(10巻91話 アシㇼパの台詞)

 この言葉は、アシㇼパの明るい未来を象徴しているのでは、と思います。

「女というのは恐ろしい」という二瓶の言葉を象徴するのがインカラマッなら、「アイヌの女はしたたかなんだ」という言葉はアシㇼパを指しているかもしれません。

本誌の樺太編はアシㇼパ組に不穏な空気が漂っていますが、アシㇼパは運命に負けずしたたかに未来を選び取り、ハッピーエンドになるんじゃないかなと期待してます。

 

 

ここまで長文を読んで頂き、ありがとうございました。

次回は列強の侵攻と闘争、キロランケについて書ければと思っています。

 

 

*参考文献

公益社団法人 北海道アイヌ協会HP

https://www.ainu-assn.or.jp/ainupeople/history.html

国土交通省北海道開発局 札幌開発建設部HP

https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/kasen_keikaku/e9fjd600000003r4.html

北海道歴史・文化ポータルサイトAKARENGA HP

https://www.akarenga-h.jp/hokkaido/kaitaku/k-02/