本の虫生活

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【国内編】懐かしの児童文学

先日、昔読んでいた児童文学の海外編を紹介したので、今度は国内の作品を選びました。

 

ブレイブ・ストーリー

ブレイブ・ストーリー(上)

ブレイブ・ストーリー(上)

 

 当時読んだ国内の児童向け作品といったらこれ。王道冒険ファンタジーといったイメージでした。

<あらすじ>

小学五年生の亘は、父と母と友人に囲まれ穏やかな生活を送っていたが、ある日両親の離婚話が持ち上がり状況が一変する。浮気相手と暮らすと言って出ていった父、絶望し亘を巻き込み自殺しようとした母。平和だったかつての暮らしを取り戻すため「運命を変えたい」と願った亘に、行方不明となっていた謎の転校生美鶴が「幻界(ヴィジョン)へ行け」と呼びかけ、亘は願いを叶えるために旅立つことを決意する。未知の世界で冒険を経て、二人は願いを叶えられるのか。

 

主人公とライバルの美鶴が入り込む「幻界」の世界がRPGのようで、ゲームの世界を文章で表すとこんな感じかな、と思った作品でした。わたしはほとんどゲームをしなかったので、子どもの頃ファンタジー色の強い本が大好きで、本作も夢中で読んでいました。異世界に行くまでの流れがなんとも現実的で、そこは宮部みゆきらしいですが、ラストを読むと必要な設定だったんだなと感じました。純粋に童心で空想の世界で冒険をする、という素直な読み方をするにはぴったりな作品です。

 

ドリームバスター

ドリームバスター

ドリームバスター

 

 宮部みゆき氏は「模倣犯」「火車」などの社会派と時代物の小説が有名ですが、ブレイブ・ストーリーICO、そしてドリームバスターなどファンタジーも結構読みやすくて面白いです。

<あらすじ>

 地球とは異なる位相にある惑星「テーラ」では、人間の意識と肉体を切り離す計画が進行していた。ついに「ビッグ・オールド・ワン」という実験機の完成により成功が期待されたが、暴走事故を引き起こし計画は失敗した。この大災厄と呼ばれた暴走事故は、実験の被験者だった死刑囚50人を意識だけの存在に変え、死刑囚たちは地球人の夢の中へと逃げ込み行方をくらましてしまった。逃亡者を捕まえるため、通称「ドリームバスター」達は地球人の夢の中へ入り込み、悪夢に悩む人々を救っていく。

 

異星人の「ドリームバスター」たちが地球で悪夢に悩む人の危機に駆け付け、助けてくれるという設定。ごく普通に日常を送る地球人たちが夢のなかで冒険をするという筋書きは本格ファンタジーよりは設定に入り込みやすく、さらっと読めました。シリーズが4巻まで出ていて未完なので、ずっと待っていますがまだ続きが出ないのがちょっと惜しいです。いいところまで進んでいるのに…。

 

都会のトム&ソーヤ

 小中学生の間で流行っていた小説のひとつ。ファンタジー要素は上二つより大分少ないけれど、主人公たちへの共感が強いのはこの作品でした。

<あらすじ>

驚異的なサバイバル精神を持っているが、普段は塾通いに追われる平凡な毎日を過ごす内藤内人と、大財閥「竜王グループ」の跡取りで学校創設以来の秀才と持て囃されている頭脳派の竜王創也の二人が、都会を舞台に究極のゲームを作るために冒険する物語。

内藤内人は「どこにでもいる平凡な中学2年生」を自称しているが、幼い頃から山にこもって祖母に教わった数々の知恵をもとに、どんな状況でも切り抜けられるサバイバル能力を持っている。対して竜王創也は大財閥の一人息子でグループの跡取りである秀才だが、「世界最高のゲームクリエイターになり、究極のゲームを作る」という夢を持っている。全然違うタイプの二人がタッグを組み、都会を軽やかではなく危なっかしく冒険する爽やかな青春小説。

 

ファンタジー色は抑え目で、「実際にこんな冒険ができたら」と憧れるような小説で、わたしが子どもの頃はかなり流行っていました。サバイバルって一度は憧れますよね。ダークファンタジーとか、ドロドロした人間模様とかとは無縁の爽やかさがこの小説の売りだと思います。

 

彩雲国物語

彩雲国物語 一、はじまりの風は紅く (角川文庫)

彩雲国物語 一、はじまりの風は紅く (角川文庫)

 

 ライトノベルのイメージで、ギャグやラブコメの要素も強いけど、政治の駆け引きや格差や差別、疫病などシリアスな話も上手く取り入れているなと感じました。少女漫画風な文体やファンタジー色の強い世界観のなかに厳しい現実を織り込んでくるのが絶妙です。

<あらすじ>

 彩雲国という中華風の世界観が強い国を舞台に、主人公の少女が官吏として成長する様子を描いたファンタジー。貴族の名門、紅家の直系長姫として生まれたのに貧乏生活を送っている主人公紅秀麗が、あるきっかけで「官吏になりたい」と一度諦めた夢を追い求め叶えていく物語。 貧乏暮らしを余儀なくされていた紅秀麗は、ある日破格の高給に惹かれ、貴妃として後宮に入り王の教育係をする仕事を引き受けた。それ以来、官吏の世界に触れていき、次第に秀麗はかつての夢を思い出すようになる。しかし「女」は官吏として働くことを許可されていない時代。諦めと夢の間で揺れる秀麗の耳に、「女人官吏」導入の知らせが入り、運命は大きく動き始めた。

 

ライトノベルや少女漫画風の装丁で、ライトな筆致なのに結構重い内容でギャップに驚いた作品です。ギャグやラブコメと、シリアスの温度差がすごい。主人公は彩雲国ではじめての女性官吏(役人のこと)となりますが、苛められるは貶されるは、「女など来るな」と排斥されるはもうすごい。どんなに蹴落とされても、突き放されても自分の努力と不屈の闘志で這い上がってくる秀麗に、次第に周りも態度を変えていくのが痛快です。逆にシンパをつくっていく秀麗のバイタリティーに圧倒されました。自分が新入社員になって、毎日のように現場で叱られていたとき、このシリーズを読んだら共感がものすごくてボロボロ泣いてしまいました。周りから敵視と無視をされ、それでも「官吏になれた。夢を叶えたのだからうれしい」と言い、世の為人の為に働く主人公が男前すぎて大好きでした。完結後に発売された「骸骨を乞う」では、本編より抑えた筆致で全然雰囲気が違ってまた驚きました。こちらはちょっと大人目線で楽しみたい内容です。

 

No.6

NO.6♯1 (講談社文庫)

NO.6♯1 (講談社文庫)

 

 ライトな文体と疾走感が読みやすいSFです。恩田陸氏の「ロミオとロミオは永遠に」のような少年少女が主役で、巨大な敵に立ち向かうというストーリーが共感しやすい。時々挟まれる「マクベス」などの引用も効果的です。

<あらすじ>

 理想都市「NO.6」に住む少年紫苑は、9月7日が12回目の誕生日に忘れられない出会いを経験した。その日から、彼の運命は予想もしない方向へと変わり始めた。「矯正施設」から抜け出してきた謎の少年ネズミと出会い、負傷していた彼を家に入れ、助けた紫苑は、その行いを治安局に咎められ、高級住宅街「クロノス」から準市民の最下層居住地「ロストタウン」へと追いやられてしまう。
出会いから4年後、紫苑は身に覚えのないまま奇怪な事件の犯人として連行されるところをネズミに救われ、彼と再会を果たす。壁で覆われたNO.6を脱出し、様々な人々と出会う中で紫苑は、理想都市の裏側にある現実に直面し、「NO.6」の隠された秘密を知ることになる。

 

典型的な理想都市のエリートとして幼少期を過ごしながら、紫苑はずっと都市に違和感を持っていた。ネズミとの出会いで紫苑が変わっていき、やがて理想都市の残虐な一面に気づき、行動を起こしていきますが、単純に「成長」として描かれないところが面白かったです。紫苑が変わっていくことを恐れるネズミと、盲目的なほどネズミに入れ込む紫苑とのギャップが不穏な様子をよく表しています。大団円に見えて、先行きに不安の入り混じるラストに余韻を感じます。醜悪に歪んだ「理想都市」も、かつては理想に燃え、希望に満ちていたと仄めかされていることが印象的でした。終幕からひと段落し、それぞれの場所で生きる彼らのその後を描いた外伝も出ていますが、底でも不穏な空気は払拭されないのが「らしい」と思いました。続編を読みたかったのですが、出ないみたいですね。

 

 

以上、国内編5作品を紹介しました。外国編とどちらのがなじみ深かったでしょうか。

読書への最初の階段、児童文学は思い出深い作品が多いので書いていて楽しかったです。