zarameのブログ

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【祝直木賞候補入り】上田早夕里氏を勧めたい

先日、直木賞候補作品が発表されました。

受賞作が発表される前に、ノミネートされた上田早夕里氏について語りたいと思います。

破滅の王

破滅の王

 

 まずは今回の直木賞候補に選ばれた『破滅の王』について。

 

<あらすじ>

1943年6月、上海。かつて『魔都』と呼ばれるほど繁栄を誇った町は、太平洋戦争を境に日本軍に占領されてから、かつての喧騒は感じられなくなった。
上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本敏明は、戦時中の重い空気や軍の圧力を感じながらも、科学による国際交流を重んじる研究所に馴染み、日々研究にいそしんでいた。しかし、日本総領事館から呼び出しを受け重要機密文書の精査を依頼されてから宮本の運命は急転する。

重要機密文書とは『キング』と暗号名で呼ばれる治療法皆無の新種の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は未完成のものであった。宮本は治療薬の製造を依頼されるが、遂行してしまえば自らの手で細菌兵器を完成させてしまうことになる。人としての矜持とそれを許さぬ時代の圧力の間で葛藤する科学者たちの奮闘、各国軍の暗躍、細菌兵器誕生の謎が絡み合い、各人がたどり着く真相とはーーー。

個人的には意外な結末だったので、これ以上は書かないでおきます。SFとして、雰囲気は高野和明『ジェノサイド』に似てるような気がしました。京極夏彦が好きな人なら、『邪魅の雫』に描かれる要素が入っているので併せて読むと、舞台となる満州事変以後の中国と日本の事情がちょっとわかる(気がするので)おすすめです。

 

細菌兵器を巡るサスペンスであり、歴史SFであり、人間の矜持を問うヒューマンドラマでもある作品ですが、著者ならではの膨大な資料を背景にした重厚な世界観のお蔭で薄っぺらくなることもなく、読みごたえたっぷりで楽しめます。SFやファンタジーであっても、時代や設定に見合った知識に裏打ちされた周到で緻密な世界観は、上田作品の魅力のひとつです。

 

著者のブログに関連記事があったので興味がありましたらどうぞ。また、ブログに記載されていますが、『シミルボン』というサイトで破滅の王の資料に関するコラムを著者が書いています。

 その他、短編と長編について過去の記事で紹介したので一部載せておきます。

・短編「夢見る葦笛」

上田氏の作品を“お試し”するならこの短編集がおすすめです。1話が短く、数が多いだけでなく様々なジャンルの話がバランスよく収録されているので、どんな作家か気になった方へ最初に紹介したい1冊です。『破滅の王』の前身となった短編もあり、時代や構成は共通しているのに全く違った幻想的な雰囲気になっています。

 

・長編「華竜の宮」

最もおすすめしたい『オーシャン・クロニクル』シリーズ第1作。

小松左京日本沈没』の地球規模バージョンといった設定のSFです。今回直木賞は破滅の王が候補作品ですが、完成度と緻密さはこのシリーズのが上手だと思います。

ここまで気合の入ったSFはそうそう読めるものではない。読んでるだけなのにめちゃくちゃ頭使った気分になりました…。続編の『深紅の碑文』も併せて読むと、また違った印象を受けました。

書きたいことは以下の過去記事にほぼ書いたので、気になった方は読んでみてください。