本の虫生活

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【子どもの読書離れは起きているか?】"こどもの本総選挙”から考える

「小学生がえらぶ! “こどもの本” 総選挙」というイベントの結果が5月5日に発表されました。こんな面白そうなイベントなのに、毎日新聞の朝刊に載るまで気が付きませんでした。「今の子どもも結構本読んでるんだな」と思ったのですが、よく記事を読むと強烈な違和感を覚えたので、理由を考察してみました。

 

この総選挙の結果は、『子どもの読書環境が貧困である』可能性を示唆しているのではないでしょうか。

 

 「こどもの本総選挙」は、ポプラ社のこどもの本総選挙事務局主催、朝の読書推進協議会が特別協力で昨年から今年にかけて開催されました。2017年10月1日時点で、小学生である人なら誰でも「好きな本」を1冊投票できるイベントです。

 

f:id:zaramechan:20180524091831j:plain ポプラ社こどもの本総選挙HP https://www.poplar.co.jp/company/kodomonohon/ より引用) 

 

 TOP10は以下の通りです。特設ページにはTOP100まで載っています。

 

1位 『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』今泉忠明:監修
2位 『あるかしら書店』ヨシタケシンスケ:著 
3位 『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ:作
4位 『おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』今泉忠明:監修
5位 『おしりたんてい かいとうVSたんてい』トロル:作・絵
6位 『おしりたんてい いせきからのSOS』トロル:作・絵
7位 『このあと どうしちゃおう』ヨシタケシンスケ:作
8位 『ぼくらの七日間戦争宗田理:作
9位 『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』廣嶋玲子:作、jyajya:絵
10位 『りゆうがあります』ヨシタケシンスケ:作・絵

 

 総勢12万人の小学生が応募したという結果は、思っていたより多いなと感じました。2017年4月1日時点の日本の15歳以下の人口は1571万人。小学生の人口にだいたい近い6~11歳の人口は638万人なので、任意のイベントにしては参加数が多いほうかなと思います。

 

これだけ見ると、読書という行為は子どもに結構浸透しているように感じます。

ただ、結果TOP10をはじめて見たとき、わたしは強烈な違和感を覚えました。

「小学生にしては、幼くないか?」

 

その理由は

①絵本が多い

②偏っている

 の2つです。

 

①絵本が多い

まず、TOP10に4作品がランクインしているヨシタケシンスケ氏。ここ最近、絵本コーナーでは必ず見るくらい、人気のある作家です。こどもの共感が強く「クラスで盛り上がった」「そうだと思う!ということがたくさん書いてある」などのコメントが寄せられています。何歳向けなどは書いてありませんが、3位と10位は32ページとかなりページ数が少ないのが気になりました。

また、2作品ランクインしている「おしりたんてい」シリーズ。こちらは幼児向け絵本とおおよそ6歳以降向けのよみものに分類されており、ランクインはよみものから2作。ただ調べてみると、5位のかいとうVSたんていは85ページ、6位のいせきからのSOSは87ページ。

全体的に、絵本かそれに近い本が過半数というのに違和感を覚えました。小学生の投票いっても、高学年からの応募はあまり無かったのでしょうか…。

 

②偏っている

 ①で述べたように、同一作家の作品が選ばれていることが気になります。TOP10のなかで、作家は5人です。

また、もう一つ気になるのは新しい本が多いことです。10作品は2009年~2017年に発表されており、2015年以降が7作品です。特に、1位にランクインした「ざんねんないきもの事典」は新聞に載る本屋ごとの売れ筋週間ベスト10に頻繁にランクインしており、テレビなどメディアでしょっちゅう取り上げられていました。

つまり、ここ最近の話題の作家・作品に偏っており、多様性が少ないことがランキングら読み取れます。

 

 

『子どもの読書環境が極めて貧困である』とは

近年、書店数が減り続けているという統計があります。つまり、物理的に子どもが本を選ぶ環境が貧相である可能性が高いと推測できます。f:id:zaramechan:20180524102834j:plain

(日本著者販促センターHP 書店数の推移 http://www.1book.co.jp/001166.html より引用)

 実際に営業している店舗はもっと減っているという報告もあります。

全国書店数の推移 2003年~2011年 寄稿:冬狐洞隆也氏:【 FAX DM、FAX送信の日本著者販促センター 】

 

 

子ども向けの本コーナーが縮小している可能性

厳しい出版不況のなか、生き残りをかけて本屋は「確実に売れる」人気の本、新しい本を集中的に仕入れているでしょう。本屋自体が少ないことに加え、本屋で出会う本の種類と数も確実に減ってきていると考えられます。

確証はないですが、メディアで取り上げられた本を過剰に宣伝する風潮が見られることから「大人がこどもの読む本にバイアスをかけている」ため、似通った本がこどもに与えられるという現象もあると思います。

 「売れ筋の本しか置かない」となると、恐らく子ども向け本のコーナーというのは小さくなります。なぜなら、こどもの人口は少なく利益があまり見込めないから。赤ちゃん~幼児・小学生向けのコーナーが一つになっている本屋をよく見かけます。本屋にいる親子は、まず「子ども向けコーナー」で本を探すことが多いと思います。しかしそこに小さい子向けの絵本が多ければ、それを選ぶでしょう。「小学生にしては幼い」本が多く選ばれたのは、そもそも子ども向けの児童文学など、小学生が読みやすい本が本屋に置いていなかったからだと思います。このままでは、世に出回る本の多様性は、失われてしまうかもしれません。

 

わたしが小学生のときは、学校の図書室は小さく、あまり数は多くなかったけれど色々な種類の本が置いてあり、選ぶのが楽しかった思い出があります。小学生には難しすぎると思うような「戦争と平和」とか岩波文庫系の「旧約聖書物語」、星新一のショート・ショートなど国内・海外両方の有名な作品や、青い鳥文庫クレヨン王国」みたいな児童書まで多様だったのは本当に有難かったのだといまになって思います。中学校は砂漠のような無機質な図書室でしたが…。

子ども向けの本は値段が高いし、家庭によって経済状況は違うので、地域の図書館や特に学校の図書室にはぜひ頑張って多様な本を置いてほしいです。

 

 みんなで共通の本を読むのは楽しいけれど、世の中には一生かかっても読み切れないほど膨大な種類の本があります。

本が好きで投票する子どもたちには、多様で広大な本の世界をもっと知ってほしいと願わずにはいられません。

 レイ・ブラッドベリの描いたような、本のない世界が訪れませんように。

(華氏四百五十一度は外せないですよね!)