zarameのブログ

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【おすすめ本2018】20冊目 上田早夕里④深紅の碑文

おすすめ本紹介、20回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
引き続き、上田早夕里氏から長編をもうひとつ紹介します。

 

深紅の碑文(上) (ハヤカワ文庫JA)

深紅の碑文(上) (ハヤカワ文庫JA)

 

 前回の記事で書いた「華竜の宮」の続編です。

 前作で予見された地球規模の大災害<大異変>を前に、人類が生き延びるため、残された時間の平和を模索するもの、最後の夢を追うもの、自由に生きるもの等、人類が最後の時間を苦悩しながら生きる姿が描かれています。

 50年以内に大災害が予見された世界。いつかは予測できないけれど、50年という短い期間のなかで確実に起こる大災害を前に人類が生き残りをかけて奔走する様子を中心に描かれると思っていたので、ちょっと意外な展開でした。

 

大災害の告知をした後、人々はすぐに恐慌に陥らなかった。正確に理解して行動する者は少なく、大半の一般人は「なにか大変なことが起こるらしい」とか、「自分はその頃は寿命が来るだろうから関係ない」など、楽観的といえる態度を取っていた。真っ先に動いたのは営利を追求する企業であり、モノ不足が深刻になってようやく、大衆の危機感が高まるようになる。

確かにわたし達は、窮地に立たされていても、自分のこととして認識する能力はあまりないかもしれません。現代社会でも、地球温暖化少子高齢化、将来に向かって様々な問題が山積しているのに、それを毎日意識することはほぼありません。作中の鈍感に過ごす人の描写がリアルで少しぞっとしました。

 

弾圧される海上民の権利を守るために立ち上がり、次第に暴徒化していく「ラブカ」、前作の主人公青澄が率いる事業型救援団体、宗教による救援活動、政治家の思惑、世界を裏から操る「見えない十人」。深刻化する陸と海の対立、全容の見えない水面下の争い等、前作より一層不穏な気配のまま物語が進むなか、滅亡へと向かう世界へ風穴を開ける前代未聞の「宇宙船開発計画」が動き出していく。

 

前作では陸と海、二つの異なる文化・民族の対立と、人類以外の生物との共存、というのが大きなテーマとしてありました。今作ではさらに極限の状態で、人類は争いを止めて平和を実現することができるか、また、滅亡の前に人類は「夢」に近づくことができるか、という2つのテーマがメインで描かれているように思います。

ギリギリの状況ですべてを救うことができず、苦しい状況のなか「対話」で戦う人々の奮闘と、弾圧され不満を爆発させ、次第に闘いにのめり込み破滅へと進むラブカとの深刻な溝が繰り返し描かれ、共存の難しさが暗い影を落としているのに、何故か追い詰められているラブカサイドから、奔放で自由な風を感じさせる描写が印象的でした。

 

 また、本作でメインテーマのひとつとなっている「深宇宙開発」。いつか大災害によって人類が絶滅したとしても、「人間」という種が懸命に生き、宇宙へ手を伸ばした事実を残したい。そんな夢のため、世界中から寄付金を募り、宇宙へロケットを飛ばす計画が動いていく。世界的な大災害を前に、目の前の人を救わずに「夢」のためにお金を遣う行為は、多方面から批判を受けて度々中断を余儀なくされます。葛藤しながら前を向く若者の目を通して描かれる宇宙への憧れ、純粋な夢への希求は、いつの時代も変わらない宇宙への、未知のものへ惹かれる人類の好奇心そのものだと感じました。

 

 最後に、オーシャン・クロニクルシリーズに関する著者のインタビューを見つけたので載せておきます。

このシリーズは今まで紹介した作品だけでなく、今後続編、番外編が出る可能性大だそうです。ハヤカワ文庫下巻の解説のところにも載ってますので、気になる方は確認してみて下さい。

prologuewave.com

 

 ついでに同じ著者の過去記事(最新作)も貼っておきます。

zaramechan.hatenablog.com