zarameのブログ

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

【おすすめ本2018】16冊目 井上ひさし

おすすめ本紹介、16回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
16回目は井上ひさし氏から。

 

新釈 遠野物語 (新潮文庫)

新釈 遠野物語 (新潮文庫)

 

 井上ひさし氏は、小説家よりも前に劇作家としてデビューした人物で、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆したことで名前を知っている方も多いと思います。

井上ひさし氏といえばこちら。

「むずかしいことを やさしく
 やさしいことを ふかく
 ふかいことを おもしろく」

著者の公式HPにも載っている座右の銘です。

難解なことばや格調高い文学、複雑な構想ではなくて、一つひとつのことばが印象に残り、すうっと心に入ってくる文章が特徴的な著者のポリシーが伝わってくる言葉です。国語学者顔負けと言われたくらいことばに詳しく、堪能な著者の目指す文章が、修辞をこらしたものでないというのが私はすごく好きです。

 小説のほかエッセイも面白く、今回どの作品を選ぶか迷いました。子どもの頃昔話を親にせがんでいた気持ちを思い出す、ユーモアたっぷりの「新釈遠野物語」が一番好きなので、選ばせていただきました。

 

さて、本書の紹介をしていきますが、この本は柳田国男氏の「遠野物語」の解説書ではありません。

私は購入したとき、てっきり解説本だと思っていました。馴染みのない地名や見慣れない言葉が多く、「遠野物語」をなかなか読破できずにいたので、解説書から読んでしまおうと手に取りました。

しかし1ページ目から何やら怪しいすべりだしで、あっという間に引き込まれてしまい、唸りました。少し抜粋すると、

 

「これから何回かにわたって語られるおはなしはすべて、遠野近くの人、犬伏太吉老人から聞いたものである。(中略)犬伏老人は話し上手だが、ずいぶんいんちき臭いところがあり、ぼくもまた多少の誇大癖があるので、一字一句あてにならぬことばかりあると思われる。考えるに遠野の近くには、この手の物語がなお数百件あることだろう。ぼくとしてはあんまりそれらを聞きたくはないのであるが、山神山人のこの手の話は、平地人の腹の皮をすこしはよじらせる働きをするだろう」

新潮文庫  新釈遠野物語P8より一部抜粋)

 

柳田国男氏の「遠野物語」をパロディにしたような書き出しです。

原典では、柳田国男氏が遠野の佐々木鏡石氏から聞いた話を一字一句加減せず書き出した話を語る、と書かれているのに対して、井上ひさし氏は「ぼく」がうさんくさい犬伏老人から昔話を聞いているが、老人の話は怪しいし、自分の創作も入るからとても信用ならない、と書いています。

 本編はその通り、遠野物語を原案に新しく創作したパラレルワールドとして読める作品です。結果として、先にこちらを読んだおかげで民話へのイメージがより具体的になり、遠野物語も前より苦戦せずに読めるようになりました。それに何より、今ではほとんど耳にしない「迷信」や「伝説」を、リアリティあふれる語り口で創作している本に出会えて、妖怪や民話の面白さに気が付けたのが収穫でした(大体この時期に京極夏彦の本にも出会ったので、すっかり夢中になってしまいました。)

 

遠野物語に登場する妖怪の奇妙で懐かしい、聞いたことがあるような話や、土地に根付いた昔の生活、風習を想起させる生々しい語り口は、実際に自分が遠野に行って民話に耳を傾けているような感覚にさせます。

 

子どものころ聞いた昔話、おとぎ話を思い出しながら、大人に読んでほしい1冊です。