本の虫生活

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ボリュームに驚く圧巻のマンガー明治失業忍法帖

最近、ずっと好きだったマンガの最終巻が発売されたので、記念に記事をひとつ。

 

明治維新前後の激動の時代、一人ひとりの人間がどのように生きたのか。

人知れずに消えていった数々のドラマを想像させる、マンガとは思えないほど緻密で内容の濃い作品です。

 

杉山小弥花先生の「明治失業忍法帖」全11巻 

マンガの舞台は明治維新後の日本。目まぐるしく変わる江戸のまちで、新しい時代の幕開けに心躍らせる主人公と、江戸の世が終わり職を失った元忍者の出会いから、物語ははじまります。

 

主人公、商家の娘菊乃は先進的な思想にあこがれ、周りから奇異の目で見られながらも新しい生き方を模索している。そんな主人公の前に、元伊賀忍の清十郎が現れ、2人は偽装結婚の契約をしながら主従関係を結ぶことになる。明治の世を騒がす様々な事件に巻き込まれながら、主人公と清十郎の運命が大きく動き出すーーー。

江戸から明治へ急激に変化する社会で、自分らしく生きることに期待をかける菊乃のひたむきさと奔放な行動力には、現代を生きる女性にもエールを与えてくれます。
人と違うこと、理想を分かちあえないことに苦しみながらも、少しの勇気と行動で頑なな人の心を少しずつ変えていく主人公の姿は、自分と他人を信じる大切さを教えてくれます。


もうひとつ、本作の大きな魅力となっているのが元伊賀忍の婚約者、清十郎の存在です。秘密主義でなかなか本心を見せず、飄々と振る舞う清十郎と、恋愛に不器用で素直に気持ちを伝えられずに悩む菊乃との恋の行方や、清十郎の「正体」をさぐる周囲の攻防が見所です。清十郎が垣間見せる冷酷な忍びの顔、細切れに見え隠れする過去の描写に近づいてくる不穏な影ーーー。
最終回に近づくにつれ徐々に明らかになる清十郎の正体とは。歴史を勉強しながら推理してみるのも一興です。

 

当時の最新の技術や文化が入り乱れる描写は、まるで明治の世にタイムスリップしたかのような臨場感にあふれていて、なんとなく耳にしたことのある歴史上の事件や人物、文化を自分の目で見たような体験を味わえます。苦手だった明治期、近代の歴史も楽しめて、学生のときに読みたかった、と思いました。


マンガとは思えないほどの情報量、繊細な心情描写に何度でも読み返したくなる作品です。 今なら1巻無料なので、ぜひ試してみてください。