本の虫生活

おすすめ本の紹介などしています。著者をア行からワ行まで順番に。

ブログを書くコストの話

ブログを書くのは、お金がかかる。

 

ついでに言えば、気力と体力も思ったよりかかる。

 

趣味ではじめて好きで続けているのに、なぜか書けずに苦しんでいる時間のほうが長いし、いつも締め切りに追われるような気分になるのも事実だったりします。

でも辞めようかと思うと、まあ待てという風になり、気が付けば次の記事の構想を練ったりしています。

今日は、そんなブログ事情を書くことにします。
(※スランプで記事が書けないから…でもありますが)

 

ブログを書くにも、先立つものが必要だ

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(本を買うのにも、けっこうお金がかかります)

わたしは筆が遅いほうで、このブログも週二回更新という頻度できりきり舞いになっています。しかも自室の机では、ほとんど進まずぼーっとTwitterを眺めたり、動画配信で映画を観たりして過ごしてしまいます。

仕事の昼休みや休日に、コーヒーを飲みながらなど雰囲気から入らないとなかなか書けません。できれば待ち合わせまでの待ち時間など、時間制限つきであればベストです。

カフェにB5くらいのノートとボールペン1本を取り出し、店内の様子や窓の外を時々眺めながら資料の本を2冊くらい開きながらブログの下書きをする。上手く気分が乗っている日であれば、2時間弱のカフェ滞在で2~3本分の記事を書くこともありますが、それはかなりいい方です。大抵はそれでも1.5本くらいがやっと。あまりに長く滞在するのは難しいので、長くとも2時間を超えないように朝早くから出向いたり、場所を変えてみたりする日もあります。

 ここまで読んで頂ければわかるかと思いますが、これはかなり効率が悪いです。ちょうどよく空いているカフェなどはあまりないし、20~30分という短時間で出てきては下書きは捗りません。隣の人の話し声がうるさすぎても駄目です。それでも自室で唸るよりは、遥に効率がよかったので今まではそうしていました。

しかし、悲しいことに5月のGW明けくらいから、事情が変わってしまいそうも言っていられなくなりました。

 

忙しい。

 

多忙は人を追い詰める魔物です。連休明けから繁忙期でもないのにとても忙しく、とうとう6月という本物の繁忙期に入ってしまいました。

昼休みはいつも仕事で丸潰れ、休日は出勤か疲労で目覚めると夕方、土曜日に休めても体調を崩して病院へ。そんな1か月のなか、もうブログなんか閉鎖してやる!と2日に1回くらい考えていました。

でも悲しいかな、ただの趣味なのに辞めるには抵抗があり、結局続けてしまいます。書き始めるとなんだか楽しいんです。

 

なので方法を変えました。

時間はお金で購うことができるのではないか、と。
考えた結果がこちら。グリーン車です。

 

わたしは住んでいる場所から職場が遠いため、通勤に1時間半くらいかかります。言うまでもなく通勤ラッシュ真っ只中で、通勤がてら読書を楽しんだり、イヤホンで語学を勉強したりという余裕がありません。イヤホンの音量調節に手を伸ばすことすら難しいので。そんな中、悠然とグリーン車でくつろぐ乗客を羨まし気に横目で眺めるうちに、ひらめきました。そうか、その手があったと。

週に1回くらいなら、グリーン車に乗ってもいいじゃないか?

コーヒー屋に頻繁に入るより、トータルで見れば安いし、一週間のご褒美としてグリーン車に乗るという案は結構ありかと思い、実践してみました。時間制限はあるし、しかも一回の出費がコーヒーより高いため罪悪感であまりさぼれない。やってみると実際かなり捗りました。

休日の方が安いので、休日遠出したり遊びに出かけるときに利用すると平日よりお得感がある上、リッチに遊んでいる気分になってなんとなく楽しいです。しかし、この方法も割と問題がありました。

懐が厳しくなる、という点です。

一度慣れてしまうと恐ろしいもので、平日と休日で2回乗ったり、喉が渇くなどと言って一緒に飲み物も買ったり、明らかに出費がかさんでしまいました。最初はコーヒー屋に何度も行くより安い、何より時間を有効に使っていると思いましたが、50分で1本分の下書きをするのがやっとでコスト的には高くなりました。

 

結局、趣味というのはお金と手間がかかるものと思い書きたいように書き続けることにしましたが、時々更新が遅れるときもあります。本ブログを読んでくださっている皆さま、そんなときは『金欠かな』とお察しください。もしくは、風邪でダウンかもしれないし、引きこもり読書かもしれませんが…。

 自室でさくさく文章を書ける方って本当にすごいです。わたしは御膳立てが命なので笑。他のブロガーさんのそういう話も知りたいです、すごく。誰か書いているでしょうか?

 

今回は本もピアノも全く関係ない、執筆裏話をお送りしました。

ちなみにこの文章も、グリーン車のなかで書き上げたものを自室PCで打ち出したものです。

もしグリーン車内で一心不乱にノートに走り書きをしている人間がいたら、わたしかもしれません。もし見かけても、そっとしておいて下さると助かります。怪しいものではありませんので。

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】59冊目 恒川光太郎

おすすめ本紹介、59回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は恒川光太郎氏。

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

 

 懐かしいような趣の和製ホラー、恒川光太郎氏の出世作です。

どこかノスタルジーを感じる古き良き日本の怪談の世界のような、でも少し現代的な不思議な味のある作品です。

<あらすじ>

小学生のころ、妖たちが様々な品物を売る〔夜市〕に迷い込んだ裕司は、元の世界に戻るために弟を人攫いに売ってしまいます。必ず買い戻しに来ると誓う裕司でしたが、元の世界に戻ると文字通り弟の存在が『消されて』いることを知り、引き換えに自分が野球の才能を得たことに気が付きます。華々しく才能を開花させた裕司は、弟のことを後悔しつづけ、ずっと夜市の開かれる機会を伺っていました。裕司は念願の機会を前に、アルバイトで知り合った大学生のいずみの協力を得て、再び夜市へと足を踏み入れることになり…。

 

ホラーというより御伽噺とか、昔話のような日常のどこかに埋もれている‟ふしぎな扉”の話に近いです。読み終えた後、懐かしい過去の記憶やずっと会っていない人のことを思い出しました。郷愁を誘われるというか、すこし切ないような気分を感じるのは恒川氏の文章のやさしさによるものだと思います。

一度入ったら、何かを買わないと出て来ることは叶わない夜市。生涯で3回しか入ることができず、必ず対価を要求する市場。厳格なきまりに支配された空間は、猥雑な日常とは違う‟異世界”であることを強く意識させます。裕司と弟、人攫い、…。それぞれの選択と思惑が絡み合い、予想外の展開へと進んでいきます。淡々とした文体ですが、しっかりとした構成のため飽きずにあっという間に読み切りました。

 

小さい頃探検した山や森、通学路を外れて寄り道した住宅街、一人で迷子になったときの心もとなさ。そういう記憶に結び付く、在りし日の小さな冒険の怖さを思い出しました。子どもの頃の気持ちを思い出すきっかけになる、淡く切ない文章です。

 

【小説が好き!の会】5/26読書会レポ

半年ぶりに、小説が好き!の会の読書会にお邪魔してきました。

久しぶりの参加でちょっとドキドキしながら伺ったのですが、相変わらず和気あいあいとした雰囲気で、活気ある読書会でした。

だいぶご無沙汰していたのに、結構覚えてくださっている方もいて何だか嬉しかったです。30人越えの大所帯だけあり、集まった本も壮観です。

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読書会のスケジュールはこんな感じ。

 

①自己紹介&アイスブレイク

 各テーブルに5~6人がつき、まず簡単に自己紹介をします。毎回簡単な質問が投げかけられるので、それに答えつつ進みます。今回は『好きな食べ物について』。トルコ料理やザーサイなど、割と個性の出る回答があって盛り上がりました。ちょっとしたアイスブレイクを挟むと緊張がほぐれていいですね。

 

②本紹介

 お待ちかねの本紹介。こちらの読書会では2冊持ってきて紹介する方が多いので、最初のテーブルで持ってきたうちのどの本を紹介するか悩みます。

ここで、今回紹介された本すべてを書こうと思ったのですが、すべてをメモすることはできなかったので割愛します。気になる方は記事の最初でupした写真を拡大して見て頂くか、小説が好き!の会さんのブログで毎回紹介された本の一覧を掲載してくださっているので、そちらを確認して頂ければと思います(ものぐさですみません)。ベストセラーなどではないちょっと個性的な本だったり、海外文学だったり、古典の名作だったり、はたまた最近出たばかりの本だったり。知っている本でも他人の紹介を聞くと何だか新鮮で面白いです。十二国記を紹介されていた人や、最近再読したゲイルズバーグの春を愛すや、個人的にハマりつつあるクリスティを紹介されていた方が居て、今回はいつもよりちょっとテンションが上がりました。最初はひとり10分程度話をするのは長いと思っていましたが、質問されたり盛り上がるのでいつもあっという間に感じます。

いつもながら30人越えの会で、2冊ずつ持ってきているというのに1冊も本が被らないことに驚きです。世にはこんなにたくさんの小説があるのだ、と感慨深い気持ちになるような、ならないような。

 

③全体シェア

 テーブルごとの紹介時間が終わると、ひとり30秒くらいで全体のシェアを行います。テーブルごとで盛り上がるのは楽しいですが、やっぱり折角の大人数なので皆さんの持ってきた本も知りたいです。この時間では短いですが、全員のおすすめ本を知ることができるのでいいシステムだと思います。あとでフリートークの時間や、飲み会のときに話をするチャンスがあるので、よく聞いておくとまた後の楽しみができます。

 

その後、もう一巡②、③を経てすべての本を中央に並べます。

 

各自写真を撮ったり、並んだ本を眺めたりするこの時間がわたしは好きです。

本屋や図書館以外で、たくさんの本が並べられているのを見ることはないので新鮮です。しかも、自分で選んだ本ではなくて、たくさんの人が思い思いの本を持ち寄り、一か所に集まるというのがちょっと感動します。

読書会は今でこそ普通になりましたが、よく考えてみると自分が学生のときなどは存在を聞いたこともなかったし、大人になってこんな機会があると知ってすごくワクワクしました。読書が趣味というとまじめとか、ぼっちとか何故か周囲に敬遠されることが多かったので、純粋に本が好きという人達で集まる機会ってすごく楽しいです。

 

読書会後の懇親会(こと飲み会)も物凄く行きたかったのですが、今回は仕事が修羅場なので不参加でした…。

読書会では遠い席であまり話せなかった人と話したり、読書会以上のコアなトークも楽しめるので、次回はぜひ参加したいです。

 

最後になりましたが、小説が好き!の会さん、本当にありがとうございました。

 

【アート×読書】ヨコハマ読書会参加レポ

先週の日曜日、ヨコハマ読書会さんに初参加してきました。

アート鑑賞会と読書会というちょっと斬新な取り合わせに心惹かれ、ドキドキしながらの参加でした。

 テーマ別読書会ということで、小説に限らず幅広いジャンルからあるテーマに沿って本を紹介するため、普段全く関わりのなかった世界を垣間見ることができました。

途中で中華街の人気店でのランチをはさみ、終始和やかでゆったりした雰囲気だったので初参加でも気兼ねせずに楽しめました。

 

当日の流れはこんな感じです。

 

①アート鑑賞会

タイトル、作者など情報をすべて伏せられた状態で、ある一枚の絵を鑑賞します。何も知らずにまっさらな状態で絵をじっくり眺めることは少ないので、ちょっと新鮮な感じです。

今回使用されたのは、ルネ・マグリットの『王様の美術館』。

(以下の横浜美術館のHPよりコレクション検索をすると、大きな画像で見られますので、ご興味のある方はぜひご覧ください)

一見シンプルでとっつきやすそうに見えますが、じっくり鑑賞してみると不思議なところがたくさんあります。青と黒を基調にした落ち着いた印象。中心に大きく男性の立ち姿が描かれていますが、男性の姿はシルエットと目、鼻、口以外は描かれず、背景が透けています。背景が無地で、後ろに透けて見える風景は青々とした山脈と薄曇りの空。山の向こうには何やら小さな赤い屋根の建物が描かれています。寒色系が大部分を占める絵なので、鮮やかではないけれどそこだけ赤がポツンと浮き上がり、眼をひきました。

シュルレアリスム現代アートとというのは、普段全く無知で知らないことばかりだったのですが、こうしてイベントで触れてみるともっと気軽に楽しんでいいものなのだと思いました。

何も知らずに見ていたときと、タイトルや絵の説明を聞いたあとで見るとき。それぞれに面白さがありました。

 

②ランチ会

 お昼ご飯は中華街へ。エビワンタンの有名なお店に行ってきました。

予約のためスムーズに入れましたが、外は行列で、さすが有名店という感じでした。こじんまりとしていて、なんと料理人1人で切り盛りしているようです。色々メニューがあったので、今度横浜に寄るときにまた行ってみたいです。

お昼ごはんを囲みながら、読書会前にリラックスしてお話ができたのもよかったです。読書会だと、時間内に本のことを話し合うだけであっという間に時間が経ってしまうので、ちょっと余裕を持って参加ができるというのもいいものだなと思いました。

 

③読書会

そして最後がお待ちかねの読書会。

アートに関連した本を持ち寄るということで、わたし自身とても本選びで迷いました。アートなど全然詳しいほうではないし、好きな本のなかで選ぶとなるとまた難しくて、でもそんな時間も楽しくて、ワクワクしながら臨みました。

 

紹介された本がこちらです。

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TOBACCO BOOK たばこの本(複数)
現代アート超入門 藤田 令伊著
現代アートと経済学 宮津 大輔著
手仕事の日本 柳 宗悦著
作家のおやつ コロナブックス編集部
イラストで読む 旧約聖書の物語と絵画 杉全美帆子著
時の娘 ジョセフィン・テイ著
ドリアン・グレイの肖像 オスカー ワイルド著
僕らの色彩 田亀 源五郎
木をかこう ブルーノ・ムナーリ

 

ビジネス書や岩波文庫、おかしの本に漫画、絵の描き方の本など、想像以上に多岐にわたるジャンルからの紹介で驚きました。個人的には、一人は原田マハさんの本を持ってくると予想していたのですが、全く外れました笑。

アートと一言でいっても、アートと経済の結びつき、歴史上の位置づけ、宗教画、民芸品、民芸品の芸術性、芸術家そのものへのフォーカスなど、様々な切り口から考えることができるのだと目を開かされました。

わたしはブログで書いていることもあり、本といっても小説が8割くらいで他のジャンルはその合間に読むことが多いです。なので、雑誌やビジネス書などあまり読んでいなかった本の面白さを教わり、色々と興味が湧いた一日でした。それに一日でちょっとだけアート(特に現代アート)に詳しくなったような気がして、お得な気分でした。

 

盛だくさんの読書会でしたがあっという間な気がして、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。

最後になりましたが、イベントを主催してくださったヨコハマ読書会さんに心より感謝を。

素敵な一日をありがとうございました。

 

【五十音順・おすすめ小説紹介】58冊目 筒井康隆

おすすめ本紹介、58回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は筒井康隆氏。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 筒井康隆氏は多作なので、どの作品を選ぶか悩みました。

映画が爆発的にヒットした『時をかける少女』や、少し前になぜか再ブレイクした『旅のラゴス』が有名ですが、それ以外にも熱烈なファンの多い作家です。

 

今回の記事で選んだ『家族八景』は、テレパス七瀬シリーズの短編集です。このシリーズは個人的に一番印象的だったので選びました。300頁に満たない短編集で、8編の短編から成ります。

主人公の七瀬は超絶美女で頭脳明晰の18歳で、住み込みの家政婦をしています。彼女は〔テレパス〕つまり人の心を読み取る能力を生まれつき持ち、その能力によって盗み見てしまった(或いは意図的に覗いた)家庭の内情をエグみたっぷりに書ききったのが本作です。シリーズでは基本的に七瀬の運命を中心に物語が展開しますが、この短編集ではあくまで彼女は傍観者。家政婦として垣間見てしまった〔家庭〕の歪な姿が生々しく描かれていて、テレパスという設定を生かした濃い1冊でした。

七瀬が勤める家庭は夫婦ふたりの落ち着いた暮らし、11人の子供がいる大家族、子ども夫婦と同居する家庭など、一見どこにでもある一般家庭です。しかし、一度扉をくぐりその生活に入ってしまうと、外からでは見えなかった滑稽で猥雑でどこか悲哀に満ちた〔普通の家庭〕が姿を現します。

男性、女性、子ども、青年、中年、老年、…。それぞれの人間の厭な部分、自分達の隠したい性質、目を背けたくなるような卑小さ、そういうものを余すところなく書ききった、凄みのある短編集です。人によっては合わない本だとも思います。でも、人間のそういうみっともないところ、駄目なところを描くことでかえって人間への愛おしさを示しているのかもしれません。

 

ただ、読んだことのない方にはすこしだけ注意を。こわい話、エグい話があまりにも苦手な人にはおすすめできません。最後の短編『亡母渇仰』をはじめて読んだときは息をのみました。テレパスでなくてはできなかった衝撃の結末。こんな作品を書くなんて、やはりただ者ではない作家だと痛感しました。