【五十音順・おすすめ小説紹介】41冊目 佐藤愛子
おすすめ本紹介、41回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
小説ではなく、エッセイです。
今回は佐藤愛子氏。
振り回される人へのエール、あるいは叱咤。
佐藤愛子氏は、実をいうと作品をあまり読んだことがありません。
偶々手に取ったエッセイが何とも面白く、有名どころの『血脈』などを読まずに気づいたらエッセイばかり読んでいました。
『九十歳。何がめでたい』で話題を呼んだことは記憶に新しく、センセーショナルなタイトルは何でも長寿がめでたいという風潮に一矢報いていました。今回紹介するエッセイも、やはり持ち味はキレのよすぎる舌鋒とユーモアで、なんだか勇気が出てくる本でした。
壮絶な人生経験のなせるわざなのか、それとも女傑と評される気性のおかげなのか、歯切れよく語られる言葉は力強く、それでいて説教臭さや押しつけがましさをあまり感じさせません。しかし意外にも、本人は自分を『女傑』とは思っていないそうです。
本のなかで「破れかぶれ」と自分を評していた愛子氏。自分は勇敢で決断力に満ちているのではなく、短気のせいで我慢ならないことが多く、結果果断な人と思われるのだというようなことを言っていました。
「破れかぶれの行動だって、勇敢に見えることがある」
特別に気丈な人だから強いわけではない。自分の思うように行動してみればよい。そんなエールを貰える本でした。
愛子氏ほど果断に行動することはすぐにはできないけれど、言い訳をしない生き様は爽快で、読んでいて少し羨ましくなりました。
最後に、もう1冊おすすめを書いておきます。
タイトルが秀逸で、すぐ手に取ってしまいました。率直でドキリとするタイトルが目をひく1冊です。
【グラフで遊ぶ】五条悟の無下限呪術
2020/11/13更新
アニメ放送記念の一部修正&追記。
約2年前に書いていた記事と思うと、時の流れを感じますね。アニメ放送記念に、過去記事を少し修正したので更新しました。
***
今年秋、ゴールデンカムイ以来のやばいマンガにハマってしまいました。
週間少年ジャンプで連載中、12月に単行本3巻発売予定のマンガ『呪術廻戦』。
主人公は凶悪な呪いの王『宿儺』の指を飲み込んでしまい死刑にされかかった少年。宿儺の指をすべて集め、自身に取り込むことを条件に刑の執行猶予をつけられ、呪術師を育成する学校である呪術高専へ入学し成長していくというストーリーです。
まだ2巻ですが既に気になる伏線が散りばめられており、今後の展開が読みにくいストーリー構成と耳に残る台詞が特徴的でぐいぐい引き込まれるマンガです。
本題はここからです。
まだ読んでない方は2巻のネタバレになるのでご注意ください。
無限って結局なに??
2巻を一気読みしたあと「???」となった方はきっとわたしだけじゃないはず。
それもそのはず、無限級数とは高校数学三年理系が習う『数Ⅲ』の内容です。
文系選択だったらそもそも習ってないです(よね?)
本記事では五条悟の能力について、数学の思考実験もどきをして考えてみようと思います。
目次
①近づくほど遅くなる⇒距離の微分は速度
②吹き飛び続ける漏瑚⇒速度は無限大に発散
③トぶ五条悟⇒術式を自分に適応する?
④おまけ⇒モノを吸い込むような空間の動き
※これは考察というより五条悟を題材にした遊びなので、暇つぶしにでもなれば幸いです
では、①について。
①近づくほど遅くなる⇒距離の微分は速度
2巻コメントで作者は以下のように言及しています。
アキレスと亀の話については、下記のサイト等を見るとわかりやすいと思います(いきなり丸投げ)。
無限の先にある魅力。アキレスと亀のパラドックスとその論破法を解説 | アタリマエ!
アキレスと亀のパラドックス①無限数の点と無限回の試行回数 | TANTANの雑学と哲学の小部屋
アキレスと亀、のままだと言語化しづらいので以下では五条の術式は『対象に無限回の運動をさせる』ことと仮定して考えてみます。
問題をわかりやすくするため、ちょっと条件をつけて検証していきます。
例⓵ゆっくり歩いたとき: 五条と漏瑚の距離が10mで、漏瑚が毎秒1mで近づいているとします(簡単にするため、五条は止まっていると仮定します)。
y=t秒後の五条・漏瑚間距離(m)、t>0とすると下のグラフのようになりt=10のとき、y(二人の距離の概算)は0になり漏瑚は五条に追いつきます。
☛10秒後に恋人つなぎ
ついでにもう一つ。
例⓶走ったとき: 五条と漏瑚の距離が10mで漏瑚が初速1m/s、加速度1m/s²で近づいているとします(五条は止まっている場合)。
y=t秒後の五条-漏瑚間距離(m)、t>0とすると下のグラフのようになりt=4のときyは0になり、漏瑚は五条に追いつきます。
☛4秒後に恋人つなぎ
以上の2つの例で示したように、宇宙の彼方というような遠すぎる距離でないなら有限の距離は有限の時間で進めば辿り着けます。
しかし実際に、14話の問題の恋人つなぎのシーンでは手を出して止まっている五条に漏瑚は近づけません。 なので近づくほど遅くなり“触れない”状況をグラフで表せないかと色々と試行錯誤してみました。
そこで梓暮|旭(@disucord124)さまのツイートに着想を得て作成したグラフがこちらです。※掲載には許可を頂いています
あくまで個人的にだけど、五条先生の術式はこんなイメージしてる。
— as (@discord124) 2018年11月23日
近づくものはどれだけいっても"近づく"(収束する)だけで交わらないし、この効果(術式)が反転するとどんどん"離れていく"(発散する)ってことだ。だからあの14話の時、術式反転の『赫』で漏瑚さん飛んでいったんだねって思ってる。 pic.twitter.com/IJgSLpPdSE
☛t→∞でも恋人つなぎできず…(残念)
ある場所から有限の距離にたどり着くには、例①②のように速度を設定しておけば10秒後、4秒後のように有限の時間が算出されます。あて推量ですが、五条悟の無限は時間をt→∞に発散させることではじめて成り立つのかもしれません。意味わからないですが。
また、このグラフはもう一つの事象を示唆しています。それが『近づくほど遅くなる』謎です。
距離(m)の微分は速さ(m/s)
という話を聞いたことはあるでしょうか。
速さというと、移動距離(m)÷時間(s)で算出するイメージがあるかと思います(例:50メートルを8秒で走ったとき、速さは6.25m/sとなる)。
上の計算は、ある距離を通過した平均の速さを求めています。
しかし、高校数学or物理では時間tで表される距離yを微分することで速度を求めることができます(この手法は、割る時間を限りなく0に近づけることで平均ではない瞬間の速度を求められる利点があります)。
ある時間t₁とt₂(0<t₁<t₂)において先程のグラフを微分したときの速度をv₁、v₂とすると、グラフは以下のようになります。
青(v₁)と赤(v₂)では、赤のほうがグラフの傾きが小さい=速度が遅いということがわかります。
このように、時間tが大きくなる(=時間が経過する)ほど漏瑚のスピードは遅くなり、最終的に止まっているのと同じくらい遅くなってしまう、ということがグラフで表現できました。
数式やグラフはあくまで一例ですが、収束する関数であればy-tグラフの微分はすべて同じようになると思います。
では、次のテーマへ。
②吹き飛び続ける漏瑚⇒速度は無限大に発散
今度は、恋人つなぎ後の漏瑚が吹き飛ばされたときのことを考えます。
2話で宿儺もくらっていた『ただ呪力で強化しただけじゃない』打撃です。これを<ケースI>とします。ちなみにこの攻撃を術式反転と仮定しました。
わかりやすくするため、①で使用した式を『通常の術式』とした場合、反転したグラフは下図のようになります。
すると見た通り、時間が経てば経つほど急激に距離が伸び加速していることがわかります。
<ケースI>五条の拳に適用
五条のパンチのスピードが上のグラフのようになるとすれば、普通の人間の運動とは思えないような加速し続ける打撃が打てます。それが速いだけではない重いパンチと考えます(注 敵に当たったら呪力をOFFにするとかしないと加速し続けて本人も止まらなくなっちゃう気がしますが、最強なので心配ないでしょう)。
次が術式反転『赫』です。これを<ケースII>とします。
基本的にケースIと原理は変わらないと仮定しましたが、原作でわざわざ描写をわけている以上、何か意味があるかもと思い考えてみました。
<ケースII>漏瑚本体に適用
漏瑚本人が、グラフのような運動をすると仮定するとこの技の怖さが見えてきます。
ケースIの場合、呪力のOFFで運動を止めることができます。しかし、もしグラフのような運動を漏瑚がさせられるとしたら、呪力で相殺などしない限り永遠に止まれないんじゃないでしょうか。
14話を見てみると『赫』をくらった漏瑚は木をなぎ倒しながら吹っ飛んでいます。猛スピードで吹き飛ばされているようで、それまでの殴られた描写とは全く違っています。
加速し続けるスピードで吹き飛ばされ続けているので、障害物にぶつかっても自分が壊れない限り止まれない。『赫』とはそういう攻撃なんじゃないでしょうか。さすが最強、怖い。
③トぶ五条悟⇒術式を自分に適応する?
次は、五条が度々行っているテレポーテーションの謎を考えてみます。
実はこれも②のグラフで考えられるのではないかと思い検証してみました。
<ケースⅢ>五条本人に適用
平たく言うと、漏瑚がくらった『赫』を自分に適用する感じです。
五条の瞬間移動とは『ものすごく加速する高速移動』と仮定してみます。
説明のため先程のグラフを少し加工しました。
図のように、係数aを大きくするほど曲線のカーブは急になる、つまり加速するスピードが急になります。赤のグラフのように急な加速で移動していれば、それは他の人からは瞬間移動と同じに見えるかもしれません。
術者である自身の運動なら、漏瑚のように為すすべなく吹き飛ばされることはなく、目的地に着くように呪力OFFのタイミングを調整したり、飛ぶ速さを調整できると思います。ただ、推測ですがかなり呪力を消費しそうですね。
④おまけ⇒モノを吸い込むような空間の動き
2巻の作者コメントを考えたのですが、さっぱりお手上げでした。
五条の術式の無限級数はファンタジーで繰り返される足し算の中に本来ない0と0を分割した“何か”が含まれます。だから無下限。
五条の無限は、この“何か”のお陰でモノを吸い込むような空間の動きが作れるそうです。
記事では書きませんが0を割るという現象について気になる方は、下記のサイトの説明がわかりやすかったので載せておきます。
捉えどころのない問題ですが、イメージとして以下で挑戦してみます。
とりあえず『モノを吸い込むような空間の動き』が実際に起こるとした場合、現実で当てはまりそうな現象というとあるものが思い浮かびます。
ブラックホールです。
ブラックホールについては専門家ではないので語れないのですが、高校物理くらいの知識を前提にするとブラックホールが周囲のモノを吸い込むのは非常に強い重力を持つためと考えられます。
重力について考えるとき、万有引力と何が違うのか?とわからなくなってきたので整理します。簡単にいうと、重力と万有引力の関係は以下のようになります。
重力=遠心力+万有引力
(上図:国土地理院重力測量HP https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/gravity_menu01.htmlより引用)
地球は自転しているため、地球上の物体は中心に向かう力(向心力)の反作用として遠心力がかかります。同時に、質量を持つ物体同士には万有引力が働くことはニュートン以降認められています。
この合力が重力ですが、遠心力の影響は引力に比べて非常に小さいので概ね無視できます。
このため、重力=万有引力としてみると、その力は以下の式で表せます。
F=GMm/r²〔N〕
Gは定数、Mとmは2つの物体の質量、rは物体間距離です。
本来万有引力は質量をもつ2つの物体間には働きますが、定数Gの値が非常に小さい(G = 6.67×10⁻¹¹ N⋅m²/kg²)ため、少なくとも片方が巨大な質量を持たない限り認識することはほぼないでしょう。
五条の術式はファンタジーであるため、厳密な公式は当てはまらないのかもしれませんが、上の式を見てみるとちょっと思いつきました。
万有引力は、物体間距離の二乗に反比例する
という点です。
質量が巨大でなくても距離rの値が小さければ小さいほど、引力Fは大きくなります。
例えば、漏瑚が恋人つなぎ直前の『止まっている』状態にあるとき、二人の距離は限りなく小さいが0ではない、極微小の値をとります。その状態が持続している間は、引力Fは認識できるくらいの大きさになるのではないでしょうか。モノを吸い込むような力というのは、その時の引力と考えられるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
繰り返しますが本記事は個人の一意見であり、正確性等を担保するものではないのでよろしくお願い致します。
0や無限、重力などについてほとんど反映できませんでしたが、以下の本や資料等は参考になると思います。記事中に載せたページも再掲しておきます。
*参考文献等
・Tooda Yuuto様のブログ アタリマエ!HP
https://atarimae.biz/archives/5584
・TANTANの雑学と哲学の小部屋HP
https://information-station.xyz/2782.html
・高校数学なんちなHP
https://naop.jp/topics/topics28.html
・国土地理院重力測量HP
https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/gravity_index.html
・異端の数ゼロ 早川書房 チャールズ・サイフェ著 林大訳
異端の数ゼロ――数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
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・ホーキング宇宙を語る 早川書房 スティーヴン・W・ホーキング著 林一訳
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読書『会』の秋
読書とは一人でするもの。
そう思っていたんですが、今年その認識が変わりました。
本について、とことん語り合う醍醐味を人生で初めて味わうことになった『読書会』のついて今日は紹介していきます。
SNSを通じて去年から知っていたものの、人見知りとネット経由の出会い
への警戒感から参加せずにいた読書会に、今年デビューしてきました。
( ↑2018年7月8日 小説が好き!の会参加時の写真 )
遅くなりましたが9月16日に開催した小説が好き!の会にて紹介された小説の一覧です!!
— 小説が好き!の会【小説に限定した読書会】 (@welovestory) 2018年9月23日
参加者の方は思い返すために、
会に来たことある人は今回がどんな感じだったかを知るために、
まだ来たことない人は今後の参考に!#読書会#小説が好きの会#小説好きな人と繋がりたいhttps://t.co/wR5rjvdGpU
次回の読書会は10月27日!
— 朝カフェの会読書部 (@asacafedokusyo) 2018年10月1日
12時から16時ぐらいまで。
参加費はご自身の飲食代のみ。
オススメの本を持ってお越しください!
https://t.co/nmUIphWnee#読書会#朝カフェの会読書部#読書好きと繋がりたい
参加させて頂いたのは上記の2つです。
私はツイッターしかアカウントを持っていないのですが、フェイスブックやインスタ経由で来る方が多いようです。
まだ参加できていないのですが、SNS上にはいまかなりの数の読書会アカウントがあるので、住んでいる地域や特色に合わせて参加してみるといいと思います。
選ぶ基準としては、
①開催地が近い
②何度も開いている
③テーマが自分に合う
あたりを考慮するとよいと思います。
①の理由は、読書会で本について存分に話し合った後、打ち上げをすることが多いというのがあります。もし意気投合して打ち上げにいく場合、あまりに遠いと帰りが大変です。
②は、やはり初めて参加するのは怖いし緊張するので、主催のSNSアカウントを見て過去の読書会の様子がわかる会だと安心です。人数や紹介されている本、または読書会報告レポートをブログ等で書いている場合もあるので、行く前に雰囲気がわかるところだと気軽に参加しやすいです。その他、小説が好き!の会の場合は『Peatix』というアプリで参加者の管理をしていて、アプリを登録すると様々なイベントの情報が見られるので、そこから探すというのもアリだと思います。
③は、読書会によっては『課題本限定』や『ビブリオバトル』、『○○小説限定(ジャンル縛り)』などルールがあるので、合うジャンルで行ってみるのがいいと思います。
初めて参加する方はルール無しで自由に好きな本を紹介し合う、というスタイルがおすすめですが、特色ある読書会も楽しそうです。
私もまだまだ読書会初心者ですが、今後は年に数回は参加したいなあと思うようになりました。
本を読む度に、これは次の読書会で紹介したいとか、小説交換会に持って行って他の人に読んでほしいとか、そう思うようになると少し本の読み方も変わってきます。
かなり小心者の私ですが、実際に行ってみると「紹介するって言ってもプレゼンに自信がない」とか「知らない人ばかりで怖い」という心配は杞憂でした。読書会はただ自分が好きな本の好きなところを語ったり、全然知らない本に出会える場です。プライベートで本について語る機会が少ない方は、思う存分好きな本を広めにいくチャンスです。
ただ、他人を不快にする言動や相手の勧める本を否定することのないよう、マナーだけは気を付ける必要があります。個人主催の会がほとんどですし、トラブルがあれば閉鎖してしまう可能性が高いです。皆で居心地の良い語り合いの場をつくる意識が必要ですね。読書会が全国でたくさん開催され、続いている現状はそういったマナーが守られている結果だと思います。私が参加した会はマナーがよかったので初めてでも安心して参加できて、楽しかったです。
12月はクリスマス会、忘年会を絡めて読書会を行うところも多いようです。
まだ席が埋まっていない会もたくさんあるようなので、試しに覗きにいってみるのはどうでしょうか。
【雑談つぶやき】魑魅魍魎の時代
朝晩急に冷え込むようになってきました。
読書の秋も冬へと移行していますが、寒いときのほうが難しくて長い本を読む気になります。
冬こそ暖かい部屋でゆっくりと読書を楽しむチャンスかもしれません。ココア片手にじっくりと読みたいです。
今年は読書会や本まつりなど、読書系のイベントに参加したり、作品の聖地巡礼をしてみたり、ブログを書いたりなど超インドア派の私としてはかなり精力的に働いた(ような?)気がします。本当は今年中に本紹介を半分くらい消化したかったですが、文章を書くって難しいですね。
ひとつ誤算だったのは、ブログ更新についてでした。
ゴールデンカムイ関係の記事と、京極夏彦の百鬼夜行シリーズ関連の記事が難航しており、年内に書ききることが難しそうです。
そんなに読んでいる方はいないと思いますが、もし待っている方がいたらすみません。鋭意執筆中ですので少々お待ちくださいませ。
それで本題ですが、今年読んだ本・マンガについてちょっと一言。
近代もの・妖怪ものフィーバーの予感がしました。
少女マンガ界隈はほとんどわからないですけど、少年・青年マンガ界だとゴールデンカムイの台頭、ジャンプ系だと鬼滅の刃なんかは人気だし、呪術廻戦はまだ序盤ですが大手になりそうな予感があります。
もともと時代ものや妖怪ものは、世代に関わらず堅調な人気があると思います。アクションあり、謎あり、友情・仲間あり、魅力的な敵ありの上、独特の世界観や衣装などワクワクする要素が多いですよね。
でもなんとなく今のブームって、系統が違うような気がします。
鬼滅の刃の独特な台詞回しや呪術廻戦の問いかけのようなモノローグ、ゴールデンカムイの繰り返される象徴的描写など、印象的な描き方が読者を掴んでいるように思います。単発のブームでは終わらないエネルギーを感じませんか?あと、ゴールデンカムイについて少し驚いたのは、時代を意識して描いているところです。エンターテイメント性だけでなく、当時の帝国陸軍、日露戦争、帝政ロシアの揺らぎなど、激動する歴史を詳細に設定に練り込んで描く緻密さに驚きました。
また、本の分野では昨年直木賞候補作となった上田早夕里氏の『破滅の王』、今秋文庫が出たばかりの柳広司氏の『幻影城市』がともに、第二次世界大戦以降の満州、関東軍防疫給水部隊、通称“七三一部隊”を題材に入れた作品を書いています。遠い昔ではない、現在と地続きの時代を描く作品、しかも満州を書いている作品が続くといのは意外でした。
明治から大正、昭和の時代を描いた作品のブームがじわりと来ているような気がします(※あくまで私見です)。
以上、雑談でした。
最後に近代・妖怪ものブーム到来へ向けて、イチオシ本とマンガを一挙紹介します。
*マンガ
①鬼滅の刃
『鬼』を題材にしたマンガと聞き、気になって読みました。思っていたのとは違いましたが、大正ロマンをほんのり感じるテイスト、テンポの良い台詞回し、笑いとシリアスのバランスがよいマンガでした。『鬼』となった妹を助けるために鬼退治をする、というアンビバレンス、憎み排除するべき鬼に情けをかける主人公。組織のなかの異端として生きながら成長するのは少年漫画等でよくある構成ですが、王道っぽさが出ないのは鬼(敵)側の哀しさが際立つ描き方によるのでしょうか。
少年漫画の王道のように見えてそうじゃない、絶妙な味わいがあるマンガです。
②呪術廻戦
最近ハマりたての作品。ワールドトリガー再開に合わせて数年ぶりにジャンプを購入し(ちょっと照れくさくて買いにくかった)、タイトルに興味を持ってまんまとやられました。いま2巻しか出てないのでハマるなら今がチャンス。
人から流れ出た負の感情、呪いから生まれる災厄を祓う呪術師たちの物語。主人公は呪いを身体に取り込み、忌避される存在となりながら呪術師への道を歩みます。ダークヒーローものと言うのでしょうか、正統派ヒーローでないけど性格は王道、ってところがいいですね。
ネタバレはあまりしない主義ですが、京極夏彦『魍魎の匣』を読んだ人は2巻で唸るはず。2巻の謎が気になった方はぜひ魍魎の匣を読んでみてほしい。
妖怪・異界系マンガで十種の神宝を出すなんて作者は本気ですね。好きです。
さんざん他の記事で書いたので、紹介は特にしません。
キロランケとウイルク、鶴見中尉の記事を書こうとしてるのに本誌の爆弾が大きすぎて大幅改正を迫られています。
④応天の門
夢枕獏氏的な世界観かな、と思って読んでみてびっくり。ガチガチの合理主義な話でした。菅原道真の論理的な謎解きが楽しめます。
鬼や怨霊のたたりなど、魑魅魍魎がまさに蔓延る世界を、主人公菅原道真が痛快に解き明かしていく探偵もののような楽しさがあります。一番怖いのは宮廷に巣食う人間たち、というどろどろした権力闘争の描写もスリリングです。
⑤明治失業忍法帖
明治失業忍法帖 巻ノ1―じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 (ボニータコミックスα)
- 作者: 杉山小弥花
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2011/05/16
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 2回
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幕末から明治に移り変わる時代。武士、町人、商人、外国人、男、女、子どもたち、それぞれの葛藤や煩悶を繊細に描いたマンガです。
主人公は元忍と開化に浮かれる女学生のコンビですが、他にも警察や陸軍、政府に反感を持つ攘夷浪士、居留区に暮らす外国人など、様々な人の視点からも描かれていて、明治に入った江戸を散歩しているような臨場感があります。新しい知識や技術が入ってきたことで活気ずく街や人、古くからのものが壊され追い詰められる人、明治の世の明るさと暗さが同時に伝わってきました。自信を持っておすすめできるマンガです。前に記事を書いたのでよければ併せてどうぞ。
ちなみに杉山氏もゴールデンカムイのファンらしいです。
⑥十十虫は夢を見る
こちらは大正ロマン満載の作品。乱歩の世界のような、少し妖しく幻想的な雰囲気とホームズのようなミステリに引き込まれます。
主人公は他人の『夢』に現れ、様々なお告げをしてしまうという体質の少年です。読書好きで学校はさぼりがちなエリート高校生で、自分では全く覚えていない『夢』のせいで次々と事件に巻き込まれます。この時代ならではのトリックや謎が満載なので、ミステリ好きにもおすすめしたいです。『明治失業忍法帖』と併せて読むと、時代の流れを感じて読みやすかったです。
*本
①魍魎の匣
近代もの・妖怪ものというなら一度は読んでみてほしい京極夏彦。
『魍魎の匣』は内容がハードだし、京極作品の独特さは合わない人もいるかとは思うのですが、他の方の感想を聞いてみたい作品です。先ほども書きましたが、『呪術廻戦』読んだ方でこの本を読んだ方は、かなりニヤニヤしませんでしたか?『王とサーカス』を読んで『鉄鼠の檻』を思い出したように。
ちなみに私は、この本を読んだ夜は眠れませんでした。
②しゃばけ
かわいい妖怪ものならこれ。
おどろおどろしい怪物ではなくて、日常に混じり、人と同じ世界を生きるキュートな妖怪が活躍する本です。癒されたいならこの本だと思います。
お菓子が大好き、それ以上に若だんな大好きな妖怪たちが江戸を自由に駆け回る様子がとってもかわいいです。
③陰陽師
ショート・ショートの怪談集、という趣があります。
平安時代の魑魅魍魎が幅をきかせていた時代を想像させる幻想的な作品です。実際にこんな風に妖怪や怪異がすぐそばにある日常を、一度は味わってみたいです。沙門空海シリーズはいつか映画化していましたが、映像より本のほうが幻想的な感じがします。
④破滅の王
歴史SFもので、昨年イチオシした1冊です。
上田氏のSFがすごく好きで、他の本も隙あらば布教していますが、これは歴史ものの風格もあって見事でした。歴史ものを書いたのが初めてとは全然思えません。
満州事変以降の中国、上海自然科学研究所を舞台に架空の細菌が各国に波乱をもたらすという、ハードSFです。しかし、当時の歴史と満州、関東軍防疫給水部隊と聞くと、あながちSFとも言い切れない現実味を感じて薄ら寒い心地がしました。
⑤幻影城市
最近本屋で見かけて買いました。
柳広司氏の本はつい買ってしまうのですが、これもまた一癖ある作品でした。
あまり書くとネタバレになってしまうのですが、関東軍の話がでてくるとは思っていなくて驚きました。満州で映画づくりを夢見る者たちと、周辺を取り巻く異様な空気。柳氏は戦時中、近代歴史の暗さを書かせるならやはりぴか一です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【五十音順・おすすめ小説紹介】40冊目 酒見賢一
おすすめ本紹介、40回目です。
この記事では著者の五十音順に、わたしのおすすめ本を紹介しています。
今回は酒見賢一氏。
酒見賢一氏を知ったはじめての作品。
『墨子』と聞いて、ピンとくる人はそんなにいないんじゃないでしょうか。
中国の春秋・戦国時代、諸子百家の時代に台頭した思想のひとつ『墨家』の始祖が墨子です。様々な思想家の入り乱れたこの時代でも一風変わった哲学を編み出し、一時は巨大な勢力を誇ったそうですが、国の統一が進み始皇帝の秦が現れた頃から歴史から姿を消したようです。日本で一番有名な『孔子』の儒教と同時期ですが、継ぐ者がいなくなったため、耳にしたことがない人も多いでしょう。
しかし、この『墨家』。一筋縄じゃいかない面白い思想家集団だったんです。
本書は墨子教団の一人の男が、ある城の窮地に駆け付け、絶体絶命の危機を奇策を持って救うという話です。
墨家の思想は『兼愛』と『非攻』です。兼愛とはおおざっぱに言うと博愛主義のことで、自己と他者とを区別せず、自分を愛するように他人を愛しなさいという思想で、キリスト教のような雰囲気があります。もうひとつ、非攻とは戦を回避することであり、他国へ侵略しようとする国を説得したり、侵略を受けている者の防衛を助けたりしていました。面白いのはまさにここで、非攻といっても専守防衛は認めていることです。博愛と非戦を説いているのに、守るための戦いは厭わない。むしろ城の防衛など戦の戦略・戦術の知識を多分に持ち、その力をもって弱小国家の戦争を助けていたといわれています。
小説ではそんな墨子教団がどうやって防衛戦を繰り広げたのか、どんな精神を持っていたのかを描いています。淡々とした、削ぎ落された文体がむしろ想像を掻き立てます。
馴染みのない題材ですが、さらっと読みやすい文体でおすすめです。
三国志好きは、読んではいけない本。
『墨攻』を読んでからこれを読むと、頭が混乱します。
どうも酒見氏は、まじめに(?)書いているときとそうじゃないときのギャップがあります。とりあえず、普通に北方謙三氏や吉川英治氏のような三国志のイメージを持っている方、時代劇や司馬遼太郎氏のような熱い時代物の好きな方は読んではいけません。これはかなりの曲者です。
上記では全然紹介になっていないので説明すると、話の大筋は『三国志』に沿っています。しかしタイトルのような『泣き虫弱虫』な諸葛孔明が描かれるかというと、それも違います。今まで読んだり、観たり聞いたりしてきた諸葛孔明とは全く違う、クレイジー孔明が楽しめます。三顧の礼から泣いて馬謖を斬るまで、有名どころのシーンを押さえていますが、これを読んだ後普通の三国志がわからなくなります。
まじめじゃない三国志でもいいよ、という人ならおすすめです。少し三国志関連の知識があるほうがより楽しめると思います。三国志演義もちょっとかじっていれば更にいいですが。あと、エヴァとかさらっと入ってます。
なんと第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。
日本ファンタジーノベル大賞とは、あまり脚光を浴びることがないですが、森見登美彦氏の『太陽の塔』や、仁木英之氏の『僕僕先生』など有名な作品も度々ある賞です。
ただ、この『後宮小説』を第一回で大賞に選んだのはすごいと思いました。
だって、冒頭の一文が
腹上死であった、と記載されている。
ファンタジーノベルで???
日本でファンタジーというと、児童書の世界のような、少年少女たちが異世界で冒険を繰り広げるような、なんとなくそんなイメージがありました。
冒頭の一文はまずそんな期待を一刀のもとに斬り伏せてきました。
古代中国を舞台としているような国の後宮(后たちの住居)で、時の権力者である皇帝が腹上死し、先帝の後を継いだ新皇帝のため新しく後宮に入れる少女たちが国中から集められるところから物語ははじまります。田舎娘の銀河は物おじしない性格で、興味本位で後宮へ入ることになります。そこでライバルである少女たちと競いながら、謎の人物とも関わりを持つようになり、ついに正妃の座を射止めてしまいます。しかし、国では反乱軍が勢力を拡大し、銀河たちの元へも迫ってきます。
『墨攻』のような比較的淡々とした語り口で、講談を聞いているように全体を俯瞰するナレーションが入るので、物語に入り込む感じの小説ではありません。ただ、冒頭の一文やところどころ入る独特の台詞回しが耳に残り、不思議な読後感でした。
読んだことがないタイプの小説、かもしれません。酒見氏らしさが感じられる1作だと思います。